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結婚してくれ。そう言われた時に、迷うこともなく是の返事をしたのは今になっても不思議だと思う。自分でも。
 私は藤の家の娘だったので、鬼殺隊のことはよくよく知っていた。うちの家が藤の家紋を掲げ始めたのは、曽祖父が鬼に襲われた時に、鬼殺隊士に助けてもらったのが始まりだ。だから私は生まれながらにして、生家が傷ついた隊士の療養宿泊施設でもあったから、黒い詰襟の服を着た人たちは知人も同然だった。
 いやしかし、その内の誰かと結婚することになるとは思わなかったのだけれど。
 その人は、今回の全ての鬼の元凶を討伐する戦いの中で腕を失くした。聞いた話によると、剣技が一等上手く、鬼殺隊の中枢を担うような存在だったらしい。
 この辺りは、藤の家はそこここにあって、うちの家を利用してくれる隊士さんの顔ぶれが同じであることはあまりない。たまに、何度かお見かけして顔だけはちょっと覚える程度のことはあったけれど、名前と顔を覚えて懇意にするような、そんな関係の隊士の方はいなかった。そして、その方は私の知らない人だった。黒髪で物静かな人だから、もしかしたら一度くらいは訪れてくれたことがあったのかもしれないが、全く覚えていないような、記憶にない人。何を思っての選択と決断だったのかは分からない。
 その人が言うには、結婚にはいくつかの条件があった。条件というより、希望だった。それらを望んでいるから、それでも良ければ結婚してくれないかと。
 そのいくつかの希望というのが、彼の寿命はあと数年で尽きてしまうがそれでも良いかということ、子を望んでくれるかということ、短い人生に付き合わせてしまうことになるが家族になって欲しい、ということだった。
 夫が短命である、というのは結婚相手にとっては致命的だ。すぐに未亡人になると決まっているし、旦那が亡くなったあと苦労することはすでに目に見えているから。稼ぎが見込めないこともあるが、これに関しては、この先お金で苦労することがないくらいのものを鬼殺隊の当主から頂いているとのことだったので、ここでは特筆すべきことではない。親が決めた相手と所帯を持って、子を成すことはままある話。これについても特段気にするものではなかった。しかし、まあ、この婚姻については親の希望でも無し、突然にやってきて突然に話を切り出してきた若者が勝手に言ってきたことであるので、私に選択権はあった。
 普通なら。誰とも知らぬ、いきなりごめんくださいとやって来て結婚を申し出るような非常識な男と結婚を、この先の人生を共にするなど、とんでもない話だと塩を撒いて追い返すような案件である。
 だけど、なぜだか私はその時思ったのだ。この人を幸せにしてあげなきゃ、と。使命感のような義務感のようなものであり、けれど心の底から湧き出でるような不思議な願いとして『幸せにしたい』と。
 そうしてトントンと話は進み、私と冨岡義勇という男は結婚したのだった。
 


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