コトネとジラーチ
きらきらきら。暗闇のなかで、まるで金平糖のような色とりどりの星たちがきらめく。しゃらりしゃらり。笹に吊るされた短冊が、笹の葉と擦れて音を奏でる。そんな金平糖の海の中で、あたしはひとり揺蕩う。
きらきらきら。星たちはあんなにも美味しそうに、綺麗にきらめいているというのに、あたしは真っ暗な闇に飲み込まれてしまいそうだ。ここは暖かさで包まれているのに、どうしてだろう。なんだか胸がきゅうっと苦しくなって、温もりを求めて腰に手を伸ばす。いつもならそこにはホルダーに付いたモンスターボールが6つついていて、あたしを出迎えてくれるはずなのに、そこにはぽっかりとした闇が広がっているだけだった。何も掴めない、それがあたしの不安を煽り立てる。
どこへいってしまったの?ぎゅう、と膝を抱えて丸くなると、自らの体温で暖かい。それでも心はちっとも暖かくなんかなかった。こわいよ、さみしいよ、ここはどこ?両腕に顔を埋めると、世界が真っ暗になった。きらきら輝く星の光も遮って、世界にあたしひとりみたい。さっきよりもっと怖くなったけど、それでも顔を上げることは出来なかった。だって、もう一度認めなきゃいけなくなるじゃない。皆がいないってことを。あたしがひとりぼっちだってことを。それは何よりも怖いことで、何よりも認めたくないことだった。
目頭が熱くなる。じわり。袖が滲んだのを感じた。ああだめ、だめだ。泣いたりなんかしたらもっと心細くなるだけなのに、分かっているのに、。とまらないよ、さみしいよ、だれか、
「あいたい」
ぽつり、自然と溢れたその言葉を呟いた瞬間、世界が明るくなるのを感じた。思わず目を開いたあたしの視界に映ったのは、金平糖の海から産み落とされたかのような、黄色いお星さま。ぱちくり、つぶらな瞳であたしを見つめるお星さまはなんだか幼く見える。それでも誰もいないと思っていた暗闇に現れてくれたことが嬉しくて、思わず手を伸ばせばお星さまも小さな手を伸ばし返してあたしの指先に触れてくれた。そこから伝わる確かな熱が、あたしの身体中を満たす。さっきよりも大粒の涙がぼとりと落ちて、暗闇に吸い込まれて消えてゆく。そんなあたしを前にしてもお星さまは全く揺るがずに、あたしをじいっと見つめたままだ。お星さまはそのまま額をあたしに突き出すと、何かを待つかのように目を閉じた。気付けば先程お星さまの手と触れたあたしの指には、しっかりとボールペンが握られている。
しゃらり。笹の葉さらさら、短冊も揺れる。お星さまの額の短冊も、揺れた。
「あなたの願い事はなあに?」
そんなことを言い出しそうに揺れる短冊に、あたしの手は引き寄せられる。願い事?あたしの願い事は、
ボールペンで、ゆっくりと一字一字綴る。ただの黒くて細いインクからじんわりと何かが広がってあたしの心を満たしてゆく。あたしが書き終えたのを確認すると、お星さまはようやく笑って、そうして何かを呟いた。なに、なあに?きこえないよ、
「ことねの願いが叶いますように」
*
うっすらと重い瞼を持ち上げると、そこはもう金平糖の海ではなかった。瞳には心配そうにあたしを見下ろす仲間たちが、いち、に、さん、し、ご。…あれ?あのこは?
あたしが旅を始めて最初に出会った相棒の姿が見えないことに、数回瞬きを繰り返したあたしはがばりと起き上がる。大輪の花を咲かせた相棒を探して立ち上がろうとすると、背後にぴったりと寄り添う温もり。振り返らなくても分かった。ずうっと一緒にいたもんね。
「ありがとう、お星さま」
皆があたしにとってどれだけ大切なのか、もう一度教えてくれてありがとう。皆がいないとどれだけあたしが駄目なのかも、再確認させてくれてありがとう。
これからもずっとずっと、この大切な仲間たちと一緒に、大好きなこの世界を歩んでいきたいです。
―――
BGM:Last Night,Good Night
タイトル→mutti
七夕話です一応…。最早一足遅れとかいうレベルじゃない
(100714)