第二十九話

……イズナが死んだ。


……オレに一族を託して…最後までオレを案じながら、逝ったのだ。


オレは昨晩、イズナの傍らに寄り添い、小夜や加代と共に通夜を行った。


蝋燭の僅な炎に照らされたイズナの顔は青白かった。

オレはイズナの顔を見るたびに、今までの自分は唯一無二の弟に何もしてやる事は出来なかったと、自責の念に駆られていた。

イズナはオレや一族のために両目をオレに託し、一族の衰退を目の当たりにしながら死んでいったのだ……。

長であるオレが力のないばかりに、一族やイズナを犠牲にさせてしまった……。


――…通夜が明けた朝にはイズナの火葬を行い、オレは父上が亡くなった日と同じように、青い空に立ち上る煙を見つめていた。



……イズナ…オレは柱間に勝ち、必ず一族を守ってみせる。

オレは決意を新たにして、近くにいるヒカクに戦の準備をするよう、命じた。ヒカクは驚いた表情を浮かべていたが、皆を広間に集めるため、次々と部下に命じていた。



「ヒカク、今度の戦は小国を潰し、忍一族を配下に置く。戦力を上げるためにな…」


「はい、うちはの戦力を狙っている忍一族も多いですから、早々に準備を始めなくては…」


「そうだな、広間に皆を集めておけ。」



ヒカクはその場から立ち去ると、オレは屋敷の玄関に上がり、広間へと向かっていた。
すると、廊下の曲がり角を曲ろうとした瞬間、小夜がオレの目の前に立ち塞がっていた。



「……邪魔だ、退け」


「……マダラ…もう、戦はやめて…。」



小夜はオレにしがみつくと、オレの胸に顔を埋めながら泣いている。
だが、オレは小夜に対する情など微塵もないから、小夜を引き離して広間へと歩き始めた。



「……マダラ…待って! どうして…私の話を聞いてくれないの?」


「フッ、前にオレがお前に言った事を忘れたのか?」

「……マダラ…一体、どうしたのよ?」



……本当に、嫌な女だ。……自ら行った行為に自覚がないとはな…

オレは小夜を一瞥すると、再び、廊下を歩き始め、広間へと到着した。皆は広間に集まっており、真剣な面持ちでオレを見ていた。

会合が始まると、やはり、イズナの件でオレに対する不信感を募らせた輩が増えたのか、反対意見を述べる者が多く見受けられた。
だが、オレはそのような輩を無視して自分の意見を押し通した。
今のうちはは千手に劣っている……。小国を潰し、数々の忍一族を束ね、千手に劣らぬ戦力を持たねばならない……。



――…‥会合が終わった頃には、既に夜が更けていた。
オレは皆を束ねて、近々行われる戦に向けて夜通し、準備を行っていた。
屋敷の周辺には篝火が灯され、夜であるにも関わらず、辺りは明るかった。
周囲を見渡してみれば、修行を行う者もいれば忍具を磨く者もおり、様々だ。一方、オレは一人で近くの山で修行をしていた。イズナの目を移植してから、新たな瞳術を得た事が分かり、それを試したくなったのだ。


……ほう、この力が…。


オレは万華鏡写輪眼を発動させ、ある術を具現化させてみると、今までにない力を手に入れた事を実感し、喜びに満ちていた。この力さえあれば、柱間を倒せると思い、美しい満月を見ながらオレは笑みを溢していた。

――…‥

新たな術を手にしたオレは屋敷に戻り、仮眠を取るため、自室へと向かっていた。
薄暗い廊下を歩き、自室の襖に手をかけようとした瞬間、誰かがオレの部屋にいる事が分かった。
こんな夜中に、無断でオレの部屋にいるとは…度胸の良い奴だ。
オレは襖を勢いよく開けると、月の光が僅かに照らされた部屋の内部に……小夜がいた。



「……マダラ…お帰りなさい…。」


「…………。」



部屋の真ん中に敷かれている布団に小夜は座っていた。



「……マダラ…あまり、無理しないで……私は…貴方が心配なのよ…」



よく見てみると、小夜は寝間着を着ていた。
余りにも無防備な姿に何を企んでいるのかと、オレは疑っていた。



「……実は…私、貴方に言いたい事があって……」


「……出ていけ、目障りだ」



オレは小夜を無視して、忍装束を脱ぎ、寝間着に着替えた。
すると、小夜はオレにいきなり、しがみつくと腰に腕を回して、抱き付いていた。



「マダラ……私、やっと気付いたの…」


「……聞きたくないな。第一、オレに話しかけるなと何度もお前に言った事を忘れたのか?」



オレは小夜の腕を振り払うと、布団の方へと歩む。



「……マダラ!ちゃんと、私の話を聞いて! お願い……!」


「しつこいぞ。さっさと部屋から出て行け」



小夜がオレの腕を握りしめる瞬間、オレは小夜を突き飛ばし、部屋の外へ出るよう、上から怒鳴りつけた。



「さっさと出ていけ! オレはお前とは関わらない、何度言わせたら気が済むんだ」


「…………。」



すると、小夜は口に手を抑えながら、畳の上に手をつき、へたり込んでいた。



「……うぅ…、……んっ…」



小夜は両手で口を抑えながら、襖を勢いよく開き、オレの部屋から出て行った。
体調が悪いのか知らんが、オレは別に気に止めることなく、布団に入った。

……昔は、あの女のために…どうすればオレを好いてくれるのだろうかと、この部屋で考えていたものだが、今思い出してみれば笑えるな…。


オレは昔の自分を思い出し、失笑をしつつ眠りについた。






「ヒカク、皆の体制は整えたのか」


「はい、体制は万全です…後は敵方の動向を捉え、総攻撃にかかれば良いかと…」


「ああ、そうだな…」



オレは新たな瞳力で、日夜を問わずオレは戦い続け、次々に小国を潰し、数々の忍一族を束ねていた。
ふと、辺りを見渡してみれば、我が一族によって荒廃した大地が広がっている。そして、倒壊した家屋に母を亡くした幼い子供が泣いているが、オレは一切情など湧かず、目の前にいれば透かさず切り殺した。
以前に比べると、うちはの勢力は拡大したが、千手の勢力に比べると、劣っている。だが、久方ぶりにオレは思う存分戦う事ができ、喜びに満ちていた。
オレの力に怯えきった忍を見ると、やはり力がものを言うのだと改めて実感したのだ。

……イズナ…この力があれば…千手を潰せる。
……雪辱を果たす事が出来る……。


オレに立ち塞がる幾千の忍を次々に切り殺し、血にまみれた服を見ては、修羅の道へとオレは無意識のうちに突き進んでいた。


――…‥


夜になり、一時、戦を中断していた。
数々の忍一族を配下に置くことで、オレは新たな体制を組み直し、戦略を練っていた。



「マダラ様…まだ、お休みになられていないのですか……?」



ふと、巻物から視線を変えてオレに話かけてきた女を見てみると、その女はオレの隣に座り、じっとオレを見つめていた。


「……明日も戦が控えている。お前はさっさと寝ろ」

「……いいえ、私はマダラ様が心配ですもの…」



その女はオレの手を握ると、次第に体を密接させてオレに話しかけている。



「……フッ、オレを誘っているつもりか?」


「……マダラ様…奥様とは…いかがお過ごしですの?」


「……彼奴の話をするな」

「マダラ様……私では駄目ですか? 私なら…マダラ様のお気持ちを慰める事が出来ます……」



オレはその女の顔を見てみると、その女の顔は……どことなく、小夜に似ているような気がした。
愛らしさの点では小夜の方が勝っているが、女が持つ独特の色気という点では、この女の方が勝っているだろう。



「……いいだろう、後でオレの元に来い」


「……はい…。」



女は妖艶な笑みを浮かべて、オレから去って行った。

フン…、このオレを誘うとは肝の据わった女だ……。一夜の仮初めの相手なら丁度よい。


オレは巻物をしまい、今晩オレが寝る天幕へと向かうと、早々に簡易な服装に着替えた。

小夜ではなく、違う女を抱くのかと思うと、以前のオレと比べてしまった。
何故、あれ程にまであの女を好いていたのだろうかと不思議に思えてならなかった。



「マダラ様…失礼致します……」


「来たか……」



その女は天幕の内部に入ると、オレの側に座り、うっとりとした表情でオレを見ていた。よく見てみると、その女は先程とは異なり、薄い着物を着て、軽く化粧をしていた。
……オレを誘惑させる気なのだろう。


「……早く其処に寝ろ、オレに抱かれたいのだろう?」


「……マダラ様って、意外と雰囲気を大切になさらないのね。奥様とは…あまり上手くいっていないのは、それが原因なのかしら?」



女は挑発的な顔でオレを見ていた。



「……フン、オレも甘く見られたものだな…。」



オレはその女を横から抱くと、体を密接させ、耳元で囁き始める。



「中々、良い体をしているな…数々の男をこの手段で誑し込ませているのだろう?」


「……ええ。私の心の穴を満たしてくれる方なら…誰でも良いのです。」


「穴……か。オレも同じだ……戦い抜いても、オレの心の穴は埋まらない…。」



オレはその女を見てみると、やはり小夜に似ていた。髪をおろしてみせれば、ますます小夜に似ているから、オレは…この女を無意識の内に小夜と重ねてしまった。



「……今夜はオレがお前の相手をしてやる。」


「優しくしてくださいね……」


「フン…どうだろうな?」


オレはその女を押し倒すと、その晩は……名も知らぬ女を散々抱いたのだった。


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