修行を終え、辺りを見回してみるとすっかり日が暮れていることに気づく。
腹も減ったことだ。帰るとするか…
「イズナ、帰るぞ。」
「そうだね。すっかり日が暮れちゃったしね…オレ、腹が減ったよ」
「今日は稲荷寿司が食べたいな。」
「お嫁さんに作ってもらえば?」
イズナめ、本当にオレをちゃかすのが好きみたいだな…こういうのに付き合うと後々厄介だ。今は口を紡いでおこう。
「………帰るぞ」
「はい。兄さん。」
オレ達は腹も減ったせいか普段より早く屋敷に帰った。
―――――
その夜、オレは自室で書物を読んでいた。
今夜は涼しいな。
夏の昼間は蝉が五月蝿くて嫌いだが、夜は好きだ。鈴虫の音色は嫌いじゃない。
誰かが襖越しにやってきたのが分かった。
「誰だ。」
「ヒカクです。少し伝えたいことがあります。」
「何だ、言え。」
こんな時間にやって来るとは珍しいな……。何事だろうか……
「小夜様のことなのですが…
あちらからの所望で、小夜様が来られる部屋を一度見回りたいとのことで…
家具等はあちらから持参するようなので、部屋にある家具は撤去をするよう仰られたのですが…。
如何なさいますか?」
「……いいだろう。うちはも舐められたもんだ。…家具ごときにケチをつけるとは強情な女のようだな…」
「では、承諾したと返事を送っておきますね。」
「あぁ。」
どんな娘だろうかと少し頭によぎった。
気高くて、美しい女か……
オレが女に興味を持つとはな、妻になる女だから興味を持つことは当たり前だと自分に言い聞かせた。