第六話
私はイズナ様が仰られた通りに角を曲がり、マダラ様の御部屋を見つけた。嬉しさのあまり笑みが溢れるが、私は身を引き締め直して自身の見栄えを気にする。髪を整え、着崩れた着物を直す。そして、一呼吸をして襖越しにマダラ様に申した。

「……夕顔でございます。お待たせして申し訳ございません」
「……入れ」

私は少し緊張しつつ、襖をゆっくりと開けた。
そこは重厚で荘厳な作りである広大な部屋だった。その部屋の中央にマダラ様が座っており、脇息に肘を置いて、身体をもたれながらお酒を召し上がっている。その御姿はあまりにも威厳に満ち溢れていた。

「……どうした。こっちに来い」
「………はい!」

その御姿に見入ってしまい身体が固まってしまっていたところを、マダラ様に呼ばれ、急に我に返る。緊張のあまり、私は威勢よく部屋に入ってしまった。心を落ち着かせようと自分に言い聞かせながら少しずつ歩み、マダラ様に近づく。そして、少し距離を置いてマダラ様の隣に座らせていただいた。

「もっと近くに寄れ」

マダラ様は畳を指先で叩く。

「…はい」

どの位の距離を保てば良いのか分からなかったので、ぎこちなく近づいた。

「…ふっ、もっと肩の力を落とせ。緊張しているのか」

マダラ様は私を優しい笑みを浮かべて、私を見つめる。

「少し…緊張はしております」

私はなんて不器用な女なのだろうか。目の前にお慕いしている方がいらっしゃるというのに、全く言葉が出てこない。
先程までマダラ様と何を話そうかと胸を躍らせていたにもかかわらず、想像とは違う自分に呆れてしまう。

「正直で良いな。…今は二人きりだ。気を楽にしろ」

マダラ様は私の髪に触れ、優しく撫でる。その時、肩をぴくりと震わせてしまった。

「男に、こう触れられるのは初めてなのか」
「あまり慣れていなくて…」
「…そうか」

最初は少し驚いてしまったが、胸が次第に高鳴り始めた。お慕いしている方に触れられ、身体の中がつうとなる。初めての感覚だった。

「酒を注いでくれないか」
「はい…かしこまりました」

私は徳利を持ち、マダラ様の盃にお酒を注ぐ。

「……その着物、似合っているな」

マダラ様は着物の裾を持ちながら、私を見つめた。

「…ありがとうございます…!」

私はとても嬉しくて、更に胸を高鳴らせていた。

「白粉を落とせば、このような顔だったのか……」

マダラ様は私の頬に手を当てると、目を細めて私を見つめる。

「誠に愛らしいな。化粧もしたのか」

マダラ様に誉めていただ上に、自分なりに綺麗にした所を一つ一つ気付いて下さり、言葉に表せられない程に嬉しかった。マダラ様から発せられる言葉に私はときめく。

「……年はいくつだ?」
「十七になります」
「……若いな。オレより八つ年下だ」

意外と歳が離れており、私は驚いていた。しかし、若くして忍一族の頭領になられているマダラ様は、本当にお強い方なのだろうと感心させられた。

「夕顔…芸妓になってまだ間もないのか?」
「……はい。実は、今日が御披露目なんです」
「とても良かった。初めてだとは思わないほどだ…」

マダラ様に誉めていただいて、沢山練習していて良かったと嬉しくなる。次第に熱を帯び始める頬。

「……頬が赤いぞ」
「……すみません!」

恥ずかしさのあまり隠す様に頬に手を添える。

「……別に謝らなくてもいいだろう…」

マダラ様はくつくつと笑い、じっくりと私の顔を見つめていた。

――嗚呼、恥ずかしい…。

「どれどれ、顔を良く見せてみろ」

マダラ様は揶揄うように仰る。

「い、いやです…!本当に恥ずかしい位に赤いので…!」

マダラ様は盃を床に置くと、私の手首を掴み、頬から無理矢理剥がそうとする。私は身体の平衡感覚が崩れてしまい、マダラ様が上に覆い被さる様な状態になってしまった。
暫くの間、私達は見つめ合った。何か始まる様な予感がした。体から心臓が飛び出すのではないかと思う程に胸が高鳴る。

「ほう…赤子の様に赤いな」

暫くの間続いていた沈黙を破り、マダラ様は小さな声で呟いた。

「そうですか…?」

その瞬間、マダラ様は目を細め、顔を近づける。顔が徐々に近づく度に、目が震えてしまう。マダラ様の唇に接してしまいそうになった時――

「……あっ…」

初めての出来事で驚いてしまい、思わず顔を背けて拒んでしまった。
マダラ様はあまり表情が変わらず、すっと身体を起こし、私を見つめていた。私も身体を起こすと、胸に手を結び、きゅっと着物を握りしめる。

「……すみません。初めての事でつい驚いてしまって…」

私は胸が突き上がる様なときめきを感じていた。しかし、初めての事でこのような場面でどう対応すれば良いのか分からず、拒む様な事をしてしまう。
その時、マダラ様は私の手をとり、身体を密接させる様に横から私を抱いた。腰にはマダラ様の手が添えられ、逃げられぬ様に。

「……今夜はお前が欲しい…」
「………!」

マダラ様は息がかかりそうな程に顔を近づけた。私は驚きのあまり、言葉が出てこなかった。

「……もう一度問うが、お前の本当の名はなんだ…?」
「……小夜…と申します」

本名は明かしてはいけない決まりだが、マダラ様に伝えたいという思いが強く、思わず声に出してしまった。

「……小夜か……良い名だ」

マダラ様は一瞬にして私を抱えると、隣の部屋の襖に手をかけ、音を立てながら襖を開く。
私は急な出来事に困惑し、思わずマダラ様の肩にしがみつく。
開かれた部屋をよく見てみると、片隅にある燭台の火がちらちらと揺れ、部屋を僅かながらに照らしていた。部屋の中央には布団が敷かれている。それを目にした私は、思わずマダラ様の方を見てしまった。今後何が起こるか予想がついたからだ。
私は少し恐くなり、マダラ様の肩に更にしがみついてしまった。

「小夜…お前は初か…?」
「……はい……少し恐くて…」
「安心しろ。加減はしてやる。……まぁ、オレの理性がどこまで続くかは分からんが……」

――その時、私はマダラ様に全てを委ねようと心に決めた。

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