第四話
宴会も終わりを告げようとしていた。
私はあれからずっとマダラ様のお側で酌をしていた。
特に話をすることもなく、私は注いでいるだけであったが、お慕いしている人の側に居られることはこの上もなく幸せだった。

そして、一度控えの間に下がる時刻となり、私はマダラ様から離れ、中央に整列している姉さん達の元に向かおうとした時だった。

「先程の約束…忘れるな。」

マダラ様は私の着物の端を少し掴み、そう告げられた。私は次第に胸の鼓動が早くなり、頬が熱くなる。

「……はい。分かっております。」

自分の気持ちを悟られぬ様誤魔化そうとするが、自然と瞬きが増え、マダラ様からの目線から逃げる様に目線を変えてしまう。素っ気無い娘だと思われてしまったのではないかと少々後悔をしてしまったが、私はそそくさと姉さん達の後ろに回った。

「…では、此れにて控えさせていただきます。この度はお招きいただき、ありがとうございました。」

私は姉さん達に合わせるように、皆様に礼をした。この時の私の頭の中はマダラ様の事で一杯だった。

――この後はマダラ様と二人きりで居られる…嗚呼、こんなに胸がときめくなんて。

思わず笑みを溢してしまう程に、マダラ様と二人で過ごす自分を想像しては胸を高鳴らせていた。
どんな化粧にしようか、どんな風に髪を結おうか、どんな着物ならお気に召してくださるだろうか――マダラ様に気に入っていただけるよう、廊下を歩きながらずっと考えていた。


私は控え室に戻ると、白粉を落とし、マダラ様に会うため薄く化粧を施していた。鏡に写る自分を見て、マダラ様の喜ぶ姿を勝手に想像しては自分なりに工夫をしていた。淡い色を瞼の上に塗り、頬にも少々赤を入れ、筆を手にとり、唇に紅色を塗る。そして宴会用の着物を脱ぎ、普通の着物に着替えようとしていた。


「小夜、あんた、大分マダラ様に気に入られたようだねぇ。」
「羨ましいわぁ。あたしらはマダラ様やイズナ様に気に入られようと頑張ったけど、マダラ様は頑として、あたしらを寄せ付けなかったし、イズナ様は一線を越えないように上手にあしらってはったし……」
「ほんと、ほんと…。結局夜のお相手をするのは他の男共だし……。まぁ、うちはの方々って結構かっこ良い人が多いからいいけど…。」
「……酌をしろと仰せつかっただけなので、多分そんなことはないと思います……」


実際に、夜の相手をしろと仰られたわけではなかったので、私はそのような対象ではないと思っていた。女として見られていないのだと、少し悲しい気持ちになったが、マダラ様のお側に少しでも居られるならそれで良いと思っていた。
姉さんは私を見ては、呆れる様に溜息をつく。

「あんた、本当に分かってないね…。まぁ、部屋に行ってみると分かるだろうけどさ…。」

「小夜!あたしの着物貸してあげるわ。この着物、かなり上等だし、なによりあんたに似合うと思ってさ!」


私は姉さんから綺麗な着物を着せてもらい、鏡の前に立ち、自身の姿を見た。私には勿体無い位に綺麗な着物だった。くるりと体を回転させた。これでマダラ様の元に向かっても大丈夫だと思い、自信がついた。

「姉さん、ありがとうございます!」
「さぁ、行ってきな!マダラ様もお待ちかねだろうよ!」
「はい!」

私は襖を開け、マダラ様の部屋に向かった。
これ程嬉しい気持ちになれたのは久方ぶりだった。
初恋に私は胸を高鳴らせ、お慕いしている人の元に一刻も早く行きたいと夢中になって、長い廊下を歩いた。

***


俺はあの宴会を終えた後、自室へと戻ろうとしていた。うちはの者達は皆、酒を持ち、戦に費やした日々の憂さ晴らしをする様に大声で笑い声を上げながら盛り上がっている。このような雰囲気を昔からあまり好まない性分もあり、皆の前から俺は立ち去った。

「兄さん、帰っちゃうの?」

イズナは俺の元に駆け寄り、不思議そうに俺に問いかける。

「ああ。この様な場所は嫌いでな。」
「ふふ、オレも兄さんと同じであんまり好きじゃないや。で、今夜はどうするの?」

イズナは挑戦的な目付きで俺に問いかける。

「……酒を飲むつもりだが。」
「一人で?」

その一言に少々動揺してしまったが、悟られぬ様平然としていた。
――イズナ流石だな。厄介なところに目をつける…。


「あの子、呼ぶんでしょ?ほどほどにしときなよ…女の人って結構思い上がるから……。何よりあの子、純情そうだし…。」
「……良いだろう。構うな…」
「はいはい、じゃあ、オレも部屋に呼ぼうかな…。今日来た芸妓さん達、梅川屋出身だからか凄く綺麗な人多かったしね。」
「……勝手にしろ。…じゃあな。」

俺はイズナの揶揄いを無視し、部屋の襖を開けて一人になった。そして、女中に部屋の準備と酒の用意を命じる。

――夕顔…か。久方ぶりに良い女を見つけた…。

俺が見つめるとすぐに目線を変え、頬を染める可愛らしさや、俺の前で舞った舞の艶やかさを思い出しては無性に側に置きたくなった。
まだ幼い雰囲気ではあったが、誠に愛らしい顔をした娘だった。その純真無垢な姿に自然と俺は惹かれてしまい、あの娘を手に入れたいと征服欲が掻き立てられた。

――いつ飽きるかは知らんが、あの娘を抱きたいと思った。

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