二人姉妹の買い物


二人の娘が住むようになり、マダラは困り果てていた。

今、結はN〇Kの教育番組を見続けては一人で騒ぎ、姉である鈴は掃除機を取り出して一人で掃除をし始めるのだった。
マダラは今までの生活とは全くかけ離れたものだったのでストレスが溜まる一方だった。



「パパ!!夕飯はどうするの?冷蔵庫の中には何もないわよ!」


「……オレはいつも外食だ」


「……そうなの!?やっぱりママが言ってた通りね、パパは生活力がないって本当のことだったのね!」

「……黙れ!………オレは夜、出かけるからな。夕飯は勝手にしろ。」


「うん、分かった。わたし、近所のスーパーに買い物に行くからお金と鍵貸して!」



鈴はマダラに手を差し出して待っている。
マダラは渋々財布を取り出して一万円札と鍵を渡す。



「一万円!?千円札にしてよ!」


「……オレは基本、カードか万札しか持たないからな」


「……あきれた!パパ何の仕事してるの?夜のお仕事なの?」


「……お前には関係ない」

鈴はマダラに詰め寄り聞き出そうとしていた。年の割りに鋭い思考を持った娘だとマダラは思った。
すると、今までずっとテレビを見ていた結はソファーから降りてマダラに駆け寄る。



「パパ!!どこか行っちゃうの?わたし、さみしいよ!」


「……。」


「かわいそうに…結はまだ5才だし、今まで父親の愛情を知らなかったからこんなに甘えてるのね……」



鈴はマダラの方をチラッと見ては溜め息をつく。
マダラは足元に絡み付いている結を無理矢理剥ぎ取りる。



「オレは仕事があるんだ。お前に構っていられる暇はない」


「そんな…ひどいよ……うわーーーーん!!」


「あーあ、パパ泣かせちゃった」



結はマダラの足元にへたり込んで、泣き叫ぶ。鈴はリュックから人形を取り出してなだめようとしているが、中々泣き止まない。



「五月蝿い!いちいち泣くな!」


「うわーーーーーん!!!!わたしは、パパの側にいるのーーーー!」


「パパ、何とかしてよ!」


すると、マダラは嫌々ながらに結を抱き上げて背中を擦り何とか泣き止ませた。



「……グスッ…グスッ…パ…パ…グスッ…」


「……朝には帰ってくる」

「パパとはなれたくない!」



結はマダラの顔に思いっきり抱き付き、中々離れなかった。
すると、テーブルに置いてある携帯のバイブが鳴り始める。

マダラは結を抱きながら、携帯を手に取り話し始める。



「……なんだ?……ああ、お前か。……ああ、分かった…今そちらに向かう。……車を出しておけ。良いな」


「……パパ、誰と話してたの?」


「……お前には関係ない。そろそろオレは家を出るからな。夕飯は鈴に作ってもらえ」



マダラは結をソファーに置き、自室に戻る。
鈴は疑うようにマダラの後ろ姿を見つめる。



「なんか、怪しい……」


「……?」


「女の人の所にでも行くのかしら…」


「女の人?」


「なんでもないよ!結、一緒に買い物に行きましょ!今日はカレーにするね!」


「うん!」



結は姉の後を追いかける。
初めて姉という存在ができて、結にとっては嬉しくて仕方がなかったのだ。

一方、マダラは自室に戻り、煙草を取り出して吹かし始めていた。
娘の前で吸うと嫌だと大きな声で叫ばれるので、部屋の中で吸うようにしていた。


そして、携帯を取り出して昨晩泊まるはずだった女に電話をかける。



「………オレだ。……今夜は空いてるか?……この前はすまなかったな」


「……空いてるけど、娘さんいるんでしょ?」


「……!……あれは…娘ではない…ただの…その…親戚だ。オレになついてしょうがないんだ」


「本当?……まぁ…あのマダラさんが子持ちなんて有り得ないわよね!…もし子持ちだなんて、うちの子達が知ったら大騒ぎよ……ふふ、いいわ、今夜は…家?それとも…」


「……ホテルに決まってるだろう…じゃあまたな。」


マダラは電話を切り、黒の背広を着て部屋を出る。
すると、玄関には結と鈴が立っていた。



「パパ、かっこいい!本当にどこに行くの?」


「パパ、気を付けてね!早く帰ってきてね!」


「……。」



マダラは黙って扉を開けて去って行った。

マダラが立ち去った後、二人の娘達は外に出る支度を始める。



「ねぇ、結のママってどんな人だったの?私のママはね、普通のOLだったの!」


「わたしのママは…うーん…お昼に帰ってきて、夜はどこかに行ってたから…そう言われると…よく分からないや」


「………あっ…そうなんだ…」



鈴は結の様子から色々と察して、あまり聞かないようにしていた。



「結は服持って来てないの?」


「うん…」


「じゃあ、スーパーの後でどこか買いにいこ!」


「うん!やったぁ!」



二人は準備をし終わり、家の扉を開けて鈴が鍵を閉める。

二人は手を繋ぎ、エレベーターに乗りマンションの一階まで降りる。



「ここのマンション、本当にホテルみたいね…」



鈴はあまりの豪華さに思わず感動してしまった。
すると、玄関の外には何やら怪しい厳つい顔をした男が立っていた。

二人は素知らぬ顔をして、玄関を出るとその男は二人を凝視していた。



「あのおじさん、見たことある!」


「結、大きな声でそんな事言っちゃダメだよ」


「だって、パパの写真に写ってたもん!!」



その男は二人に近付き、話し掛ける。



「……お前ら…もしや…」

「行こっ!結!」



鈴は結の手を引っ張り、走ってその男から逃げる。



二人は息を切らして、道端にへたり込む。



「あのおじさん…恐すぎ…」


「……たぶん、パパの友達なんだよ…」


「……そうなのかな…?」


すると後ろから急に車のクラクションが聞こえて、後ろを振り替えろうとした瞬間……



「危ない!二人とも!!」


……一人の女の人が二人を抱えて助けてくれたのだ。



「ふぅ…危なかったぁ…こんな所にいたら、ひかれるよ!」


「ありがとう…助けてくれて…」


「いいのよ!…ったく、あの車も危ないわね!ヤクザでも乗ってたのかしら!」



その女の人は白い割烹着を着て、頭には白いスカーフを巻いていた。



「じゃあね!これからは、気を付けるのよ!」


「あっ……はい!あの…お名前は…」



鈴は思わず、その女の人を引き留めてしまった。
すると、その女の人はクルッと振り向き笑顔で答える。



「田村ゆきっていうの!そこのお寿司屋さんでバイトしてるの!もしかして、この辺りに住んでるの?」


「はい。あそこのマンションに暮らしてます。」



鈴はマンションの方へと指を指して答える。
すると、ゆきは驚いた顔をして体を引きつらせる。



「えぇっ!?あのマンションに住んでるの?!おったまげたぁ…あのマンションには…」


「……?…」


「ううん、何でもないよ!あのマンションはここらでは一番高いから、普通の人間じゃ住めないよ!ハハハ…」



ゆきは何かを隠すようにして笑って誤魔化す。すると、結は鈴の服の端を持って話し掛ける。



「そこのお寿司、おいしいの?」


「うん!そうよ!中でも稲荷寿司がうちの店の評判なのよ!」


「へぇ…お姉ちゃん、買いにいこうよ!」


「えっ…でも…お持ち帰りとかできるんですか?」


「大丈夫、出来るよ。なんか、ゴメンね…買わせる雰囲気にしちゃって…」


「いや、私もお寿司食べたかったんです!」



鈴と結はゆきにすっかりなついてしまい、三人は楽しく話しながら寿司屋まで歩いていく。

すると、前から一人の女の人が歩いてきてゆきに話し掛ける。



「ゆき!久し振りね!」

「リン!びっくりしたぁ…本当に久し振りね!」


「その子達は?」


「さっき知り合ったばっかりなの…ハハハ…」


「そうなんだ!なんか流石ね…!」


「お姉ちゃん、誰?」



結はリンに話し掛けるとゆきは慌てたように紹介し始める。



「この人は、のはらリンっていうのよ。私と同じ大学に通ってて、なんと現役医学部生!マジ凄いわぁ…」


「やめてよ…ゆき…恥ずかしいじゃない……よろしくね、結ちゃん!私もこの辺りの花屋さんでバイトしてるの」


「リンはモテモテなのよ!この前なんて…」


「そんなことないよ!」



結と鈴は話に入っていけず、ただ、ぼぅと二人を見つめていた。



「でも、うちの大学のマドンナはやっぱり小南先輩よね!今、何やってらっしゃるのかな?」


「本当よね、とても頭が良くて、しかも首席で卒業してミスにも3年連続選ばれてたのに…」


「ねぇねぇ、早く買いに行きたいよ!」



結は我慢しきれなくなって二人の会話に割り込む。
ゆきは慌てて結をなだめ始める。



「あっ!ゴメンね!……じゃあ、またね!リン!」


「うん!じゃあ、またね」

「結、ダメじゃない!ゆきさんの会話に割り込んじゃ…」


「いいのよ、鈴ちゃん!じゃあ行こうか!」


「うん!」



ゆきは鈴と結の手を取り、寿司屋に向かって歩き始めたのだった。



――――――

三人は寿司屋に着き、今では結と鈴は会計を終えようとしていた。



「ありがとうございました!じゃあ、またね!」


「はい、色々とありがとうございました!」


「お姉ちゃん、またね!」


二人は無事に稲荷寿司を買い終えて、スーパーに向かって歩き始める。



「東京って本当に大きな町なのね!びっくり!」


「そうだね」



鈴と結は手を繋ぎながら大通りを歩いていた。
鈴にとってスーパーは身近にあるものだと思っていたので、中々見つからず迷っていた。
すると、一人の男が二人に話し掛ける。



「おい、大丈夫か?お主らそんな所にいたら危ないぞ。」


「結構です!行くよ、結!」


「おじさん、わたしたちスーパーに行きたいんだけど、どこにあるのか知ってる?」


「おお、スーパーか!それならな…あっちの通りを」


結がその男に話し掛けると、男は二人に丁寧に道順を教える。



「ありがとう!おじさん!」


「ありがとう!おじちゃん!」



二人はその男に手を振ってスーパーに向かって走り始める。



「偉いのぅ…あれだけ肝が据わっている娘は最近では滅多にいないからなぁ…」


「おい、兄者!こんな所にいたのか!」



黒いスーツを着た、先程マンションの玄関にいた男が走ってその男の元にやって来る。



「おぉ、扉間!いやぁ…先程、道案内をしておったのだ。そのおなごは…」


「うるさい!それより兄者、先程までマダラのマンションで偵察をしていたのだが、その時に…」


「分かった、分かった…その話は車の中で聞く。」



すると近くに大きくて黒いワゴン車が1台止まり、二人はその車に乗った。


―――その二人の男は経済をも動かすと言われ、裏の世界では知らない者はいないと言われている、千手柱間と千手扉間だったのだ。



……結と鈴は父親の敵である柱間にスーパーまでの道を案内してもらい、楽しく買い物をしていたのだった…


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