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オビトはその女に導かれて部屋に入ると、周りを何度も見渡していた。
そんな様子を微笑ましく見つめている、その女は「此所に座りなさい」と優しい声でオビトに話しかける。そして、侍女が持ってきた水羊羮を女は受け取り、オビトに渡した。
「甘いもの食べたいでしょ?」
「うん! オレ、腹へってたんだ!」
「ふふ、沢山食べていいのよ? いっぱいあるからね」
女がオビトの頭を撫でながら、そう言うと、オビトは満面の笑みを浮かべながら食べ始める。
オビトは水羊羹を食べながら、その女を見つめては、本当に綺麗な人だと思っていた。この女は、どのような人物なのだろうかとオビトは興味を抱き始め、水羊羹を食べ終わった頃にオビトは正面を向いて、女に尋ねた。
「名前は何て言うんだ?」
「あっ、そうね。貴方に言ってなかったわね。私の名前はユリっていうの」
ユリは耳に髪をかけると、オビトの手をとり、優しく話しかける。
「もし、これから先、辛い事があったりしたら私に沢山相談してね。私は貴方のお母さんだから…」
「お母さん……」
「ええ、そうよ……」
ユリがオビトを優しく抱き締めると、オビトはユリにすがりついた。
今まで一人ぼっちだったオビトはユリの優しさに触れて、安心していたのだ。
「でもさ、ユリさんって…お母さんには見えないよな」
「どうして?」
「なんかさ、お母さんにしては凄く若い感じがするし」
すると、ユリは少し笑うとオビトの頭を撫でる。
「そうね……。私は18歳で貴方は10歳だもの。貴方からしてみれば、私はお姉さんに見えるのかしら?」
「な、なんで…オレの年齢を知ってるんだ?」
「あの方から教えていただいたのよ」
ユリの発言を聞いたオビトはまさかと思いつつ、ユリに尋ねる。
「その人って……マダラのことか?」
「ええ、そうよ」
「あのさ、もしかして……ユリさんは……マダラの恋人?」
オビトはユリの顔を見つめながら、恐る恐る話しかける。しかし、マダラに恋人がいるだなんて思ってもいなかったが、何故ユリがマダラの屋敷に住んでいるのかと思うと、やはりマダラの大切な人なんだろうかと思ってしまうのだ。
「恋人……じゃないわ」
「じゃあ、なんで…マダラの屋敷に住んでいるんだ?」
ユリは少し暗い表情を浮かべるが、直ぐに優しい笑みを浮かべてオビトに話す。
「私は…あの方の妻よ」
「へっ?」とオビトは思わず、声に出してしまった。いやいや、あの堅物のマダラに妻がいるはずはないとオビトは思ったのだ。しかも、マダラは25は過ぎている筈だ。余りにもユリと年齢が離れていると思い、ますますオビトは混乱していた。
「……そ、そうなんだ。」
オビトはユリから目をそらすと、 縁側の外を見つめた。
「じゃあさ、子供とかいんのか?」
オビトは友達ができると嬉しく思っていたが、ユリは首を振って悲しい表情を浮かべる。
「いないわ。あの方と私は……」
「……?」
ユリは何かを言おうとしていたが、それを誤魔化すようにオビトに新たな話題を持ち掛けた。
「……ねぇ、オビトは本を読む?」
「……いいや。あんま、読まないかも」
「じゃあ、一緒に読みましょ? この本は、とても面白いのよ」
ユリは棚から小さな本を取り出すと、オビトと共に読み始めた。
二人は会話を読み合ったりして、仲睦まじく日がくれるまで本を読んでいた。
そして、オビトは次第にユリに打ち解けるようになり、二人はまるで親子のような関係になっていったのだ。