シズイザ(仮) | ナノ

*1000hit企画の一般人×アイドル番外編です。





「あ、臨也さん」

ピクッ


「これ新しいCMだよね?」

「……みたいだな」



『臨也』
その名前が聞こえただけで、俺の耳は勝手に反応するようになってしまった。

あいつとそういう関係になってからどれだけ経っただろうか。
うだるような暑さも身を潜め、朝晩涼しくなってきたかと思えばあっという間に上着が欠かせないほど寒さを感じる季節になっていた。


「かなり忙しいみたいだけどちゃんと連絡とってるの?」

「…まあ、それなりに」



それなりには、だ。
メールのやり取りは少ないにしろ毎日できているが、一週間声を聞いていない。無機質な文面からは元気にしているのか飯をちゃんと食っているのかもわからなかった。
こうして毎日のように画面を通して臨也の姿は見てはいるが、実際に会ったのは10日以上前だ。いい加減、あいつの顔を見ないと落ち着かない。


「ちょっと出てくる」

「気をつけて。いってらっしゃい」


少し厚手のパーカーをはおり、ケータイと財布を持って幽のいる自宅を後にする。もう時計の針は23時を回っていたが、いてもたってもいられなくなった。


この国の何万何千という人々が臨也のことを見ている。
はじめは誇らしくも思っていたが、あまり会えていない現状からそんな余裕はなくなっていた。わかってる。こんな嫉妬をしても意味などなさないことを。

もう日付が変わろうとしているのに、駅には大勢の人が群れをなしていた。
駅前の巨大スクリーンに映し出されているのは妖艶にほほ笑む臨也の姿だ。ハイボール入りのグラスを片手にこちらを見ているが、その目は俺だけのものではない。周りにいた女性からも臨也の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。


「臨也…」

「はーい?」


無意識に近い声を発して、返ってくるはずもない返事に自分でも驚くくらいの速さで振り向いた。
そこにいたのは真っ黒なコートのフードを目深にかぶり、サングラスをかけている俺より少し背が低めの男で、ついさっきディスプレイに映っていた張本人だった。



「なにしてんだよこんなとこで」

「何ってこっちのセリフ。せっかくシズちゃんちに行ってもいないんだもん」


ハッとしてお尻のポケットにつっこんだケータイを見てみると、着信履歴が5件入っていた。そこには「臨也」の文字が並んでいる。


「お前来るんなら最初っから言えよ」

「そんなこといわれてもさー。急に時間できたんだから仕方ないじゃん」

「…そうか」


声を聞くのも姿を見るのも本当に久しぶりな気がした。
ネオンの明かりのせいなのか、少し酒を飲んでいるのかはわからないがほんのりと頬が赤い。右手をのばし親指と人差し指でそのなめらかな頬をつかむと眉間に少ししわを寄せた表情が返ってきた。


「シズちゃん相変わらず体温高いね」

「お前が低いだけだろ」


今目の前にいるのはきらびやかな世界に映る臨也ではなくて、いつもの俺の隣にいる臨也だ。こうして手で触れられる距離にいることに感動を覚え、目頭が熱くなる。

今の仕事を辞めろ、なんて言えるはずがなかった。臨也には似合いすぎている業界だ。俺のくだらない嫉妬のために臨也のファンを落胆させるわけにはいかないし、第一こいつが「うん」と言うはずもない。
そんなことを思いながら思慮にふけっていると、不思議そうな顔をした臨也の冷たい手が俺の頬を撫で始めた。


「なんなのシズちゃん。そんなにオレに会えなくて寂しかった?」

「うん」


自分でも情けないとは思うが、正直にそう思ったのだから仕方ない。
潔く認めてしまえばなんてことはない。一応恋愛感情を含んだ付き合いをしているのだ。しばらく会えなければ寂しいと思うのは当たり前だ。


「…ばか」

「ばかとはなんっ…だ」


いつもの減らず口につい反応して言葉を返そうとしたが、右手が感じていた体温が急激に上がった気がする。顔を覗き込んでみると最初に見たときとは比べ物にならないくらいの赤い顔がフードに収まっていた。



「おい、」

「いきなり素直になるとか反則なんだけど」

「知るか。俺はお前に会いたくて仕方なかったんだよ」




テレビとか雑誌とかそんなものに存在する臨也はよその奴らにくれてやる。

本来ならそれすらも惜しいところだが、臨也のこんな姿を見られるのは俺だけだと信じて、久しぶりの臨也を確かめるようにその細い体を腕の中に閉じ込めた。







20111019


臨也の性格が安定しません

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