それは恋のはじまり | ナノ

*来神時代





「手前、何してんだこんなところで」

「何って、休憩。ていうかなんでドア勝手に開けちゃってんのオレが大きいほうしてたらどうするつもりだったの」

「手前は大すんのに1時間以上もかかんのかよ」

「はは、もしかしたらかかるかもしれないよ?用がないなら出てってくれるかな。なんでここにオレがいるってわかったんだよ」

「ノミ蟲の匂いなんざすぐわかるんだよ」

「相変わらずデタラメだなぁ君は」



昼休憩が終わり、お昼寝タイムの5限目を乗り越えて放課後に思いを馳せる6限目。
5限目から臨也の姿が見えず校内を探しまわっていた。屋上に向かおうとしていた途中、男子トイレの前を通りかかると嗅ぎ慣れたノミ蟲の匂いがした。中に入り授業中にも関わらず閉まっていた個室の扉を開けると、洋式の便器の上で膝を抱えてちいさくまとまったノミ蟲がいた。


「お前なにしてたんだよこんなところで」

「……何っていわれてもなぁ。授業さぼりたかっただけだよ。屋上に行くのも面倒だったし」

「ノミ蟲はノミ蟲らしくトイレに住みついてたってか」

「うるさいなぁ。シズちゃんのほうこそ何してるのこんなところで。今、授業中だよ。まさかオレを探してたの?」

「……そうだと言ったらどうする」

「あは、ほんとにそうなんだ?オレなんか探してどうしたかったの」

「姿がみえねぇからどっかでのたれ死んでるのかと思って、その顔を一番に拝んでやろうと思ったんだよ」

「なにそれ。もっとロマンチックな答え用意しておいてよー。意外性ゼロだよその答え」

「うるせぇ。俺にロマンチックさとか求めんな」


いまだにトイレの上に座り込んで動こうとしない臨也は口だけはいつものようにうざいほど動いていたが、どこかいつもと違うように見えた。何があったか知らないがどこか覇気のない臨也はいつも以上にいらついた。何をうだうだと考えてやがんだ。くそうぜぇ。

臨也の右腕を掴んでひっぱりあげると、目をまるくしてひどく驚いたような顔が見えた。「何すんのばか」と抗議の声をあげているのをよそに、個室から引っ張り出してトイレを出た。


「ちょっと、シズちゃん!はなして」

「黙れ。あんまりでけぇ声出すと教師に見つかるぞ」

「……、」


静かな廊下には授業をしている声が響いている。教室の前を通るときはいっそう静かに、足音をたてないように、臨也の腕を離さないように屋上へと続く階段を目指した。

薄暗くて人の気配のしない階段をのぼりきり、ドアを開けると一気に太陽の光が差し込んで思わず目を細める。


「まぶしい…」

「あんな陰気臭いトイレに1時間もいりゃあそう思うだろうよ。」

「あったかい」


この時期は1年で一番過ごしやすいと言われる気候なだけあって、太陽の光はぽかぽかと暖かい。


「シズちゃんは眩しいね」

「あ?」

「その金髪が太陽の光に反射して目が痛いっていってんの。」

「殴られてぇのか」


2人並んで誰もいない屋上に立ち尽くす。見えるのはまっさらな空に浮かんだ雲と臨也だけだ。あの狭いトイレに引き込もっていたって、見えるのは白い壁ばかりでなんの面白味もない。

だから俺はこいつを連れ出した。
あの狭くて真っ白で何もない部屋でじっとしてるなんて、俺だったら気が狂いそうだ。あんなところにいるくらいなら、同じ何もないところでもこの屋上のほうが何倍もましだ。

ぼんやりと目に映る空と臨也を眺めていると、突然視界が暗くなり唇に柔らかい感触がぶつかる。それは一瞬にして離れていったが、何が起こったのか全くわからず目を白黒させていると臨也の笑い声が聞こえてきた。


「シズちゃんおもしろい顔してる」

くすくすと小馬鹿にしたようなそれのおかげで俺は我に返った。


「お前、何してんだよ」

「何って、キス。」

「そういう意味じゃなくて、なんでこんなことしてんだよって聞いてんだ」

「んーなんかシズちゃん上の空だったから、したらこっち見てくれるかなぁと思って。」


その言い方だとまるで俺にかまってほしいみたいじゃねぇか。

押し当てられた熱い唇の感触がまだ残っていた。もう一度その温度を確かめたい。そう思ったときには体は勝手に動き出していて、臨也の口を自分のもので塞いでいた。

一瞬臨也の肩がびくりとはねたが、目立った抵抗はない。気をよくした俺は、上唇をはむようにさらに唇をよせた。緩んだ歯列の間にに舌を滑り込ませ、臨也の舌を絡めとる。「んっ」と臨也から声が漏れたのを聞いてしまい、さらに止まらなくなった。


あつい。何してんだ俺は。

そう思いつつも臨也の口があまりにも気持ちよくて、臨也が俺を受け入れてくれていることが嬉しくてキスをやめられることができなかった。
臨也を授業中にわざわざ探しまわっていた理由も、トイレから屋上に連れ出した理由も、こうして唇を重ねている理由も、自分では何がなんだかわからない。しかし、こうして臨也といることが俺にとっては必要なことだとなんとなくそう思った。







20110517
20110602加筆修正



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