200円の出逢い | ナノ
*パラレル
自宅の洗濯機が壊れた。
修理を頼もうにも時計の針は夜11時をさしており、さすがに今すぐは来てもらえない。
しかし今日中に洗ってしまわなければ明日着るものがなかった。忙しさにかまをかけてこれほどまでに洗濯物をためてきた自分が憎い。どうしてもう少しこまめに洗濯しなかったんだ。
たまりにたまった洗濯物を袋に詰めて臨也は仕方なく近所のコインランドリーへと向かうしかなかった。
コインランドリーの前はいつも通っているが、中に入るのは初めてだ。
(1時間か…)
乾燥機能つきの洗濯機の中でまわる黒が目立つ洗濯物。
コインランドリーから家までは徒歩5分の距離だったが家に帰ってまた取りにくるのも面倒だったので、備え付けのベンチで待つことにした。
ガラガラ
戸が開く音がして、入り口のほうを見てみると大柄な金髪の男が入ってきた。
この寒空の中ジャージにロンT1枚という格好で現れたその男は洗濯物も何ももたず、空いている洗濯機を片っ端から開け始める。
「おい、」
「……へ?」
その様子をぼーっと眺めていると声をかけられた。今ここにいるのは金髪の男とオレだけだ。
「あんた、オレのパンツしらねぇ?」
「…見てない、けど」
「念のためあんたの使ってる洗濯機も調べさせてもらっていいか?」
「いいけど入れたらばっかりだからけっこう時間かかるよ?」
「かまわねぇ」
そんなに大事なパンツなのだろか。
男は隣に座り目をとじている。1時間ケータイとにらめっこするのもたいして苦ではないけど、せっかく話し相手がいるのだ。これで時間つぶしをしない手はない。
「ねぇ」
「あ?」
「名前、なんていうの?」
「……平和島」
「下は?」
「静雄。」
へいわじま しずお
思わず吹き出しそうになるのを必死にこらえる。だって、似合わなすぎるだろ。細身ではあるが長身で金髪でこの目付き……普通の人だったらあまり関わりたくないタイプに見える。
「あんたは」
「ん?」
「名前」
「ああ、オレは折原臨也」
「おりはら…いざや?」
無理もない。姓もそれほど聞きなれない名前であるのに、下の名前は振り仮名なしで読んでもらえたためしがない。
「それよりさー、そのパンツそんなに大事なの?」
「弟からもらったもんだからな」
本日2度目の似合わなすぎる発言に笑いを必死にこらえた。
弟からもらったパンツを大事にする平和島静雄くん。この字面だけみれば、どれだけさわやかな好青年を思い浮かべるだろうか。
(顔は整っててイケメンではあるけど、好青年って感じではないよなぁ)
カッコイイ部類には入ると思う。目鼻立ちもはっきりしているし、日本人なら浮いてしまいそうな金髪も違和感なく似合っている。
「シズちゃんは弟くんと仲いいんだねぇ」
「…………シズちゃんて誰だ」
「ここにはオレと君しかいないよ?」
満面の笑みでそう答えるとシズちゃんは眉を潜めて「誰がシズちゃんだ」と軽く否定はしたものの思ったほど嫌がられることはなかった。
それから他愛もない話をして時間を過ごすと洗濯機が乾燥終了を知らせる合図を鳴らした。そこから取り出した洗濯物はふかふかであったかくて気持ちがいい。
「「あ」」
オレの洗濯物だけだと思っていたそこには、シズちゃんの探し物も混ざっていて。
それを見つけたときのシズちゃんの安堵した顔がそれまでの印象とあまりにも違ったせいで、その顔がしばらく頭から離れずオレはどうしたらいいかわからなかった。
20110118