かてきょぱろ | ナノ


高校生静雄×家庭教師(大学生)臨也







オレは教え子に恋をしている。
教え子と言っても、学生の傍らやっている家庭教師のバイトでの教え子のことで、年はオレより3つ下。学校の先生と生徒というわけではないので、生徒に恋しようがオレの勝手ではあるがしいて問題を挙げるとすれば相手が同性だということだ。


「シズちゃんやればできるんだからちゃんと授業聞きなよ」

「めんどくせえ」

「後でやるんだったら一緒でしょ。それに授業中しっかりやればオレが教える手間省けるんだし」


シズちゃんは机に向かってオレが出した数学の問題をせっせと解いている。オレはシズちゃんのベッドに寝転がりながら次に教える予定のところを眺めていた。


(シズちゃんの匂いがする…)

問題集を顔の隣に置き、うつぶせになってシーツの匂いを吸いこむとシズちゃんの香りが胸いっぱいに広がった。まるでシズちゃんに包まれているような感じがして、くすぐったい気持ちになると同時にひどく安心する。



「何してんだよ」

予想以上に声が近くでしたことに驚き顔を上げると、机に向かっていたはずのシズちゃんがオレと一緒にベッドに横たわっていた。


「いや、シズちゃんのほうこそ何してるの。課題は?」

「もうできたっつの。」

「そう…」


それにしても、顔近いよシズちゃん。
話していると息がかかりそうなほど近い距離で、シズちゃんはじっとこちらをみている。しかし、そんな至近距離で見つめられて間耐えられるほどオレの心臓は強くはない。たまらずシズちゃんに背を向けて体の向きをかえると、後ろから抱きこまれるように体を引き寄せられた。


「…っ、ちょっと、シズちゃん…」

「なんだよ」

「なんだよじゃないし、なんでそんなことしてるの」


うなじにシズちゃんの髪があたってくすぐったい。腕から抜けようと体を動かしてみるが、いまいち力が入らなくて抜け出せなかった。ちょっとでも抱きしめられて嬉しいとか思っている時点で本気で抜け出したいわけじゃないのは自分でもわかっている。


「……志望校決めた」

「え、どこにするの?」

「お前のとこ」

「……本気?」


シズちゃんはまったく勉強ができないわけではないが、今の彼の学力ではオレの大学に合格できる可能性は極めて低い。自分で言うのもなんだが、オレはそこそこ偏差値の高い大学に通っている。シズちゃんはまだ2年生だから頑張れば受からなくもないが、そうとう努力しなければいけないだろう。


「今のままじゃ可能性はゼロに近いよ」

「ゼロじゃねえなら頑張る余地はあるだろ」

「まあそうだけど…」

予想以上にシズちゃんは本気のようで、頑張ると言い張った。
オレとしてはシズちゃんが同じ大学に来てくれるなんて願ったりかなったりだ。シズちゃんが高校を卒業してしまえばオレはもう用済みだが、同じ大学であればたとえ違う学部であったとしても会うチャンスはある。


「何か学びたいことでもあるの?」

「……お前のことが知りたい」

「はは、何その理由」


オレのことが知りたいとかばかじゃないの。そんな志望動機聞いたことないよ。
ばかばかしいと思いながら、顔に熱が集まるのを抑えられない。シズちゃんのことだから深い意味はないはずだ、と自分に言い聞かせた。
一方的に気まずくなり、黙っているともぞもぞとシズちゃんの手がオレのシャツの下に潜り込んできていやらしい手つきでオレのおなかを触りはじめた。


「……むっつり」

「うっせえ黙れ」


黙れ、と言われてもこんな状況に耐えられるはずがない。静かな部屋の中でオレの心臓の音だけが痛いほど耳に響いていて、ほんの数分の出来事がひどく長く感じていた。動くに動けず大人しくしていると、シズちゃんの動きはエスカレートし、オレの首筋についばむようなキスをおとしはじめた。

どうして年下の教え子にいいようにされているんだオレは。うまく頭が働かない。
どうすればこの状況を回避できるのか考えていたが思い浮かばず、オレのおなかをまさぐっていたシズちゃんの手を掴んで引き剥がした。
シズちゃんのほうに向きなおると、眉をひそめ不満そうな顔をしていた。



「……っと、シズちゃんいい加減にして」

絞り出すのがやっとの声でそう告げると、シズちゃんは深くため息をつきベッドから降りてさっきまで課題をこなしていた机に向きなおった。

その様子にそっと心をなでおろし…いやちょっと残念だとか口がさけても言えないけど、体を起こしてシズちゃんの背中を見つめる。今はオレより少し高いくらいの身長も卒業するころにはオレの背を大きく引き離しているだろう。卒業なんてしてほしくない。ずっとオレの教え子でいてほしい。そうすればなんの後ろめたさもなく会うことができる。

シズちゃんは勉強を再開するでもなく、机につっぷして拗ねていた。
まだまだ大きな子どもにしか見えない。こんな子どもと大人の境目にいるような彼にドキドキさせられ、振り回されているオレも自分が大人かどうかなんてわからなかった。そこにあるのは、3年という年月の違いだけであって、オレもシズちゃんもさしてかわりはないのだ。



「シズちゃん」

「…なんだよ」

「頑張って大学受かろうね」

「……おう」

「そしたらさあ、」




オレのこといくらでも教えてあげるよ

ベッドから降りてシズちゃんの元に歩み寄り、耳元で囁く。
シズちゃんの肩がぴくりとはね、覗きこんでみるとそこには真っ赤な顔をしたシズちゃんがいた。





「けど、大学に合格するまではおあずけだからね」

真っ赤になった彼のこめかみにキスを落とし、1年と少し先の未来に思いを馳せた。







20110221
20110602加筆修正






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