ご存知かもしれないが
男子高校生、内海リョウは
すらりとした長身に甘いマスク、穏やかな性格、魅惑の美声を持つ比類無きイケメンであり
そして
吐血、気絶、入院常習犯という比類無き病弱少年である。(これはご存知ないかもしれない)
「うぅ…今日も一限間に合わなかったなぁ」
真っ黒い髪とパーカー、同じ色のリュックを背負う背中は身長よりも小さく見える。
調子が良くなく、今日も今日とて授業には途中参加となりそうだった。
まる一日、学校に居られた事はあまりない。
本来ならばとっくに出席が足りないのだが、学校側の配慮もあり、生徒会副会長の職に就くのを条件に随分と出席点を甘くつけて貰っている。
いくら何でも甘過ぎやしないか、と問題にも思うが。
それでもその制度に助かっているのは事実なので、とりあえず授業と任された仕事を無理のない範囲でこなす事が彼の目標となっていた。
戸締まりを確認、先のすり減り始めた靴を履き鍵をかけて家を後にする。
高校は自宅の近くにしようと決めていたので、現在通う高校は徒歩10分程度の有り難い場所にあった。
じわじわじわ。
夏も近いこの頃、しかも今の時間帯は結構暑い。
パーカーを夏用に変えようかな、とふらつきながら考えていれば、もう校門が見えてきて。
向かいの女子校からは体育なのか、黄色い声がたくさん聞こえた。
村長呼ばなきゃ、と携帯を取り出す。着く前に連絡をするのが互いの間で決まりになっていた。
ワンギリ。
それから校門にもたれて村長を待つ。歩くだけでも、この気温では随分消費してしまう。
ずりずりずり、とずり下がり、座り込んだ。
顔を上げると、まぶしい女子校の校舎が遠目に。
目は良くないのでよく見えないが、いいなぁーおんなのこ。と思い、眺めてみた。
誰か手でも振ってくれないかな。
笑顔を返してくれないかな。
まあ見えないけど。
じわじわじわ。
夏の気配が近づいている。
真っ黒いつむじを焼くように、昼前の太陽は容赦がない。
嗚呼、溶けちゃわないかな、と若干本気で心配していたら、聞き慣れた足音。
じゃり、と踏みしめる小さいローファーが視線を下げたその端に映り。
「おま、どこにいるかわかんないだろ!」
腰に手を当て仁王立ち。
いつもの村長がいた。
その足にひしっとすがりつき、情けない声を上げてみる。
「むらながぁー、暑いよぅ」
「体温たっか!あったか!とりあえず教室行くぞゴルァ」
ひょい、と肩を貸して。
リョウより30cm近く小さな少年は、軽々立ち上がった。
ずるずるずる。
リョウのつま先がやや引きずるが仕方がない。
また新しいスニーカーを買おう、と思いながら校舎へと向かった。
ちなみに二人は知らない。
女子校の校舎からそんな彼らを眺める腐ったお嬢さん方の存在も
やれどっちが受けだ攻めだの論争が繰り広げられていることも
「男子校の病弱そうな俳優系イケメン」
これが女子校生徒たちのリョウに対する認識であることも。