夕日が目に痛い。それから何となく埃っぽくて喉が痛い。
あと野球部の練習の声が煩い。声量落とせ、部費削るぞ。
などなどの事を思いながら、裕介は一人で黙々と書類を片付けていた。
ぼっちではあるが別にいじめとかそういうアレではなく。
単に他の連中が外回りのあれやこれやで忙しいので一手に引き受ける事になっただけである。
外に出るのを渋ったので、お留守番。まあ妥当な落としどころだ。しかし。
暇だし、何か寂しい。
なので黙々と、とは言ったものの実際さっきから仕事も全く捗らず、机の上に猫の落書きばかりが増えて行く。
使い古したシャーペンを軋ませて、描いているのは猫。
内田辺りがここにいたらふざけろ!と回し蹴りの一つでも食らう所である。が、残念ながらここには居ない。
誰か戻って来ねえかな。
数を数えるのも億劫なミルクティーの空きパックを更に増やしながら、少ない望みを思う。
暇だし、寂しい。そしてそれ以上に、一人でいるのはどうにも駄目だった。
ふと振り返ると、長い影がよじよじと壁を這っていて、それが自分のだと気付くのに少しかかる。
影は壁を蜥蜴のように這い、時折裕介の身じろぎに沿ってゆらゆらと揺れていた。
化物みたいだなー、と何の気はなしに眺めていたが、ふとストローから口を離した。
「聞いておくれ、くろいにせもの」
告白した、胸の内。
男子にしては厚めの唇が、歌うようにそう告げる。
「ひとりになると、全部から一人になった気がしてどうしようもなく寂しいです。哀しいです。怖いです。こういうのってどうすれば良いんだ」
返答は、勿論無い。分かり切っているので裕介もそれを求めはしない。
日が落ちて行く。
「今が凄く大事だって思います。皆よりきっと一番思ってます。すげー楽しいです。だから卒業とかそういうの考えたくないです。
言っといてアレだけどこれってデレ期じゃね?俺。ていうか何で敬語」
独り言だ。ぼやいただけの愚痴だ。誰も、聞いてなど。
しかし影法師が、頷いた気がして。
それからふっと、消えた。日が完全に落ちたらしい。外は暗く、裕介はまた一人になった。
もうそんな時間か。溜め息をついて、書類を手に取る。
適当に埋めておけば良いか、どうせ叱られると言っても担当教師はあのゆっるい男だ、問題は無い。
手をつけようとして、もう一度だけ壁を見た。
消える間際の、死にものぐるいの影法師。
そうか、あれが俺か。
「地獄に、堕ちろ」