「あー…」
黒いベッド。身を起こせば、軋んだ。リョウの白い横顔を、青い月が照らす。
カーテン閉め忘れたっけ、と掛け布団をめくり、裸足で床に降り、窓に近寄る。
そこで、窓が開いている事に気がついた。
「あれ?」
それはさすがに、ない。
吹き込む風が、レースのカーテンを揺らすのを見ながら、考える。
危機管理能力が薄い、と再三言われているが、窓を明けっ放しにした覚えは無い。喉に障るからいつも閉め切っていた筈だ。
割と「ピンチでもへらへら笑ってる」と思われがちだが、正直内心凄く、焦る。焦っている。
しかしここで固まっていてもしょうがないので、意を決して振り返った
ら。
「よお」
ひらりと片手を上げた、内田だった。
脱力する体は文字通り、がく、と膝から力が抜けて崩れ落ちた。慌てて内田がソレを受け止める。
身長差はあれど、小さいながらにやたら筋肉のついている内田の腕に、リョウは軽く収まった。
「あーびっくりした」
「こっちの台詞だよ…村長、なんでここにいるの」
ベッドにぽいっと放られ、リョウは不満げな顔をしたが気にせず内田は隣に腰掛けた。
「僕さ、リョウが休んだ時は絶対来るでしょ?」
「?うん。今日も来てたね」
「リョウが寝付くまでここに居るじゃん」
「あ、それは初耳」
「窓の鍵を開けておくのは、簡単でしょ」
「なるほど、それでベランダ登って来た訳。いや聞いてるのはそこじゃなくて」
「なんとなくだよ」
言葉尻を遮るように、内田は笑った。その笑顔の隅々に隠れるものを、リョウは知っている。
穏やかに笑うリョウの裏もまた、内田に知られている。
「莫迦みたいだねえ」
そう言えば、内田は一瞬眉をひそめて、ソレから
「笑える」
と、返した。
その横顔は確かに笑っていて。
それから二人は手を繋ぎ、眠りに落ちた。