手を繋いで



(アニメ設定使用)

3年にあがって、初めてのテストが終わって明後日からは夏休み。倉本と佐藤が、週末の予選について話し合う横で私はまだやっていない所を勉強して、学年一位の佐藤にしたり顔をたまに向ける。

「だからなんなの、花子。」
「DNAは塩基Aと…」
「わかったわかった。100点。」
「倉本、佐藤むかつく!」
「いや、邪魔してるのそっちだろ。」
「つーん!佐藤寿也君は一年四組の鈴木綾音ちゃんにお熱でーす!」
「馬鹿!嘘を大声で…。」
「照れてないで、マネージャーにしちゃいなよ。可愛いじゃん、部長に一途なマネージャーなんて。」
「野球知らないのに、この忙しい時期に足手まといになったら、鈴木さんも嫌な思いするよ。」
「光合成はっ!」
「つんざくよ。」


鈴木さんが佐藤に恋をした瞬間、私はみていた。階段を落ちそうなところを助けるなんて少女漫画みたいで、羨ましかった。私なんかなくしたティッシュの代わりに佐藤のティッシュを貰った位で、しかも なんか全然扱いも違う。

「私がマネージャーになりたいっていったら、どうする?」
「嫌でしょ、生理的に。」
「なにそれ!」
「野球のルール知ってるだけじゃ、務まんないよ。家庭科でボヤ騒ぎ起こしたさん。」
「…料理はしないもん。」
「あっ、そ。」

物の移動の計算式、ってなんだっけ。教科書をパラパラとめくる。今度の試合の攻める方向性が決まりかけてる様で、対策を練り始めた2人。その手元のお弁当たちを見て、ひとまず勉強は終わりにする事にした。引っ掛けてある鞄から、お弁当箱を出す。行きに買ってきた、ペットボトルが少しぬるくなっていた。

「倉本君って、好きな子いないの?」
「は?!」
「花子、愚問だよ。」
「え、訳分からない。」
「教えねーよ!」
「あーあ、倉本照れちゃった。」
「寿!」
「ごめんごめん。」
「男だけの会話になってるよ。」
「花子以外だけの会話の方が、正しいけどね。」
「だから寿也!」
「もう、言わないよ。」

「ねえ週末の試合見に行っていい?」
「え!なんで。」
「夏休み、暇だし。」

倉本が目をキョロキョロさせていて、私は肩をチョップすると変な奇声をあげる。

「目当ての選手がいんの?」
「別に。三船東って初出場だし。」
「ふうん。」
「何で不機嫌なの。」
「来ないでほしいから。」
「いけず、いいよ行かない。」

佐藤は三船東の話しをすると、少し恐くなる。私はそれが知りたかったから試合を観に行きたかったけど、そういう間柄じゃないから突っ込むのも図々しい気がしてヤメタ。私はお弁当の適当なおかずを頬張りながら、再開された作戦会議を聞いていた。

それから夏休みが始まり、友ノ浦が三船東に負けた事と佐藤が海堂野球の試験を受ける話しを風の噂で聞いた。
今日は町内のお祭りだけど、きっと佐藤はこない。淡い期待のままに浴衣をきて、待ち合わせ場所に行く。

「彼氏できたの?」
「3組の岡山君。」
「うひょー、なんだそりゃ。」

花火が始まる時間の二時間前、場所とりの役目が早く終わって、買い出しに走らせた友達を待ちながら、巷で言うガールズトークで二時間早い華を咲かせていた。

「花子、佐藤君はいいの?」
「なにが。」
「好きなんでしょ!」
「…別にあんな奴。」
「鈴木さん、なかなかアプローチ掛けてるらしいよ。」
「付き合えばいいじゃん。」
「はあ?」
「私なんか、佐藤にあしらわれた事しかないし。可愛い事だって言えないし、鈴木さん可愛いし。」
「まだ一時間あるよ。」
「え?」
「佐藤君の家まで20分も掛からないから、迎えにいってきなよ。」

友達が私の足を優しく叩く。

「そりゃ、佐藤と花火なんで美術品だと思うんだけど…。」
「…。」
「行ってきます。」


佐藤の家は一度、本を借りるときに案内してくれた。お弁当屋の裏にある。会場から少し離れると、人気がいつもより少なくて蝉の声だけ聞こえる。
気付くと、お弁当屋についていた。まだ明るくて、お店を覗くと佐藤のおばあちゃんがいた。

「あの…。」
「はいはい。」
「寿也君いますか?」
「あらま、ちょっと待ってね。」
「はい…。」

いた。何してたんだろう、やっぱり勉強かな。野球しない時に勉強しないと、学年一位なんてとれないよね。

「可愛い子って、花子?」
「あ…。」

ぼんやりしていると、目の前に佐藤がいた。青いティーシャツの彼は少しだけ眉を潜めている。私は佐藤のおばあちゃんに誘う所を見られるのも恥ずかしくて、手招きして一番近くの曲がり角まで向かわせる。

「浴衣なんか着て、どうしたの。」
「今日、花火大会があるの。」
「今日だったんだ。」
「これから暇?」
「お風呂入んなきゃ。」
「それ以外。」
「…暇」
「いい場所とれたし、一緒に花火大会みませんか。」
「何、電柱に言ってんの。」
「う…。」

何だか気まずくて、目をそらしていると指摘をされる。だけど目を合わせるのは今凄く難しい事で、頭の中でシミュレートするけれど、やっぱり無理そう。

「案内して、場所わかんないから。」

しかしその言葉に反応して顔を上げてしまう。佐藤はアスファルトに靴をこすらす。

「うん、うん…!」

私が歩き出すと、並ぶように佐藤も歩き出した。同じ道を辿ると、やっぱり人気は変わらず少なくかった。だけど、足音が増えているという事実だけで頬が緩んでしまう。

「何にやにやしてんの。」
「にやにやじゃない。」

「…倉本は花子の事、好きなんだ。」
「知らなかった。」
「嘘だろ…。」
「…だけど。」
「僕は倉本を応援しようと、聞いた時に思ってた。花子、生意気だし偽らずに倉本の応援できると考えれたし。」
「なにそれ!」
「だって花子、全然可愛い事言わないでしょ?」

私は言い返そうと思ったけど、それもまた該当するという事が悔しくって黙ってから、言葉が無くなる。
足音と蝉の声以外が町から消えた様になる。それもしばらく経った時に、道なりに明かりが見え始める。

「あそこ。」
「人、全然いないね。」
「多分、見やすい所に行ってるんだよ。」
「じゃあ、もうすぐなんじゃないの?」

はっとした様に携帯を開くと、花火の打ち上げ一分前を差している。

「一発目から大玉だよ!」

花火は神社から少し離れた広い空き地にあって、花火をみやすくするには高台に登らないといけない。神社から見るには、階段を登らないといけないのだ。

「急ごうか。」

走るとなると小さかった明かりも大きくなり、階段がすぐ目の前になった。佐藤が階段に足をかける、私もついていく様に昇る。息を切らしたにも関わらず、花火の爆発音が耳に入った。

「あ…。」
「あーあ、間に合わなかったね。」
「ゆっくりいこ。」

頷き、また先を歩き始める佐藤をみると、気付く。制服と違うからなのか、いつもと違う佐藤はどこか悲しくさせる。野球の試合をする顔も知らない。鈴木さんの前でどんな顔をするのかも知らない。
階段を登りきろうとする時に、佐藤の青を掴む。すると引っ張られた佐藤は振り向き、立ち止まる。

「…疲れた。」

もっとあったはずなのに、そんな言葉を選んでしまう。私は、訴える様に見ていると、目の前に佐藤の手が出る。

「つかまんなよ。」

長く、大きい手は見るだけで心臓が不規則に跳ね上がり、どうにかしてしまいそうだった。私はそろそろと手を出す。
すると、がしりと少し強い力で握られて考える間もなく、変な浮遊感に襲われる。引っ張られたと認識する頃にはあと2段あった階段を登り切っていた。

先にいた佐藤と横に並んだ。ゆっくり歩き出した足についていく。数分前とは違って、周りは蝉の声も聞こえない位に人の声と花火で騒がしくなる。段々と人気も増えてきた。本当は友達のいる場所に行くはずだったのだけれど、繋がれた手が離されるのも勿体なくて引っ張られるがままでいた。
私の肩に人が当たる程に、混み合ってくる頃には手は熱くなっていた。このまま離さずに、熱すぎて手がもし溶けたらくっついて、言えない気持ちも勝手に伝わったらいいなと思った。







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