視野が広く常に冷静に物事を判断する彼が取り乱すのが少し好きだったりするのを、彼に言えばきっと怒るだろう。

コーヒーに砂糖もミルクも欠かさない私達の可愛いお茶会にはいつも甘い食べ物が並んでいる。可愛らしいお店に一人で入りづらいと奈良坂くんの方から誘ってくれたのが始まりだった。本当は人の目なんて気にしていないくせに、口実をわざわざ作るところが可愛らしい。彼にも男子高校生らしい一面があるもんだと思ったのを覚えている。

「美味しいですね、新作気になってたんで来れて良かったです」
「だね〜当たりだったね! そういや奈良坂くんそろそろテストじゃないの?」
「来週です」

来週って、今日は金曜日だけど。と、口に出そうとしてからやめた。きっと彼のことだから普段から勉強はしている事だろう。油断も隙もない、クールビューティーとも呼べる彼が女の子に人気だということは容易に想像がつく。どうしてこんなおばさん好きになっちゃったかなあ、と、彼と出かける度に思っている。

「あ、当真だ。奈良坂一緒ですか?って」
「無視してください」

ディスプレイ画面を上に向けていた携帯電話が当真からの連絡を告げていた。途端に不機嫌そうなオーラを出すものだから、可愛らしい。

「えー、無視していいのかな」
「どうせくだらない内容です。本当に用があるならボーダー支給の方に連絡が来るでしょう」

それもそうだねと手を膝の上に戻せば、安心したようにそっと息を吐く可愛い男の子。憧れと恋を一緒にしちゃあいけないよと、何度言っても彼は分からない。

「…来週の合同訓練で、指導側を任されたんです」
「え!知らなかった。良かったじゃん。大変だけどさ、奈良坂くんなら出来ると思うよ」
「来ないんですか」

真っ直ぐな視線が飛んできて、逸らすのは失礼かと思い合わせておいた。曖昧に笑って見せるも、引く気は無いと言いたげの表情だ。

奈良坂くんは、結構馬鹿だ。知識や学力の話ではない。

「行かないよ。私はもう奈良坂くんの師匠じゃないからね」
「師匠だと思ったことは無いですよ」
「あは、こりゃ手厳しい。じゃあなあに?」
「好きな人です」

言うと思った、と言えば不服そうにされてしまった。思春期は難しいねぇ、と甘いコーヒーを啜る。

「あのねえ奈良坂くん、」
「憧れと恋を一緒にしちゃいけない、でしょう? わかっていますよ」
「あら、こりゃ驚いた」
「嘘ばかりですね」

甘くない私達の関係の中で、奈良坂くんだけが息をしている。
私はそれを嫌だと思わない。

「奈良坂くんさぁ、馬鹿だよね」
「あんたに言われたくないですけどね」
「あはは、それもそうだ」
「俺はずっと、待ってますから」

うん、と返事はしないでおいた。甘いケーキをフォークで刺して、口に放り込む。奈良坂くんの口にも差し出せば、少し迷ってから口が開いた。ごめんね、奈良坂くん。私が臆病なせいだよ。

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