太陽、向日葵、ヒーロー。彼に似合う言葉は上げだせばキリがないくらい世の中に溢れているし、そのどれもが眩く輝かしい。歯磨き粉のCMに出られるんじゃないかってくらい白い歯が除く笑顔は今日もテレビ越しに私の部屋を侵食していく。家に来てから数分でソファに丸まって眠ってしまった彼と同一人物だとはどうしても思えない。それくらい、准は私に甘えただ。

 学校でも、ボーダーでも。周りの期待や希望を一心に向けられ、それを背負うことを酷だと思わない彼はまさに三門市のヒーローと呼べるだろう。記者会見でははっきりと自分の意志を伝えることができ、その内容はボーダーからも記者からも世間からも好評だ。成績も優秀で、訓練も勉強もしっかり取り組んでいる。おまけにイケメンだ。非の打ち所がないという言葉を体現したような男だと思う。少なくとも、世の中はそう信じて止まないだろう。

「准、起きなよ。ご飯たべないの」
「ん…ああ…」

 ぼんやりとした思考の中懸命に起きようとする准の背中を起こしてやることはしない。私は、私だけは。彼に対等であろうと思っているからだ。ちやほやしたり、褒め称えたり、特別扱いしたりしない。普通の、恋人。そういう扱いを心がけていた。
 私まで彼のことを太陽だと思ってしまったら、彼はきっと、本当に遠い宇宙の彼方へ行ってしまうんだ。

「すまない、寝ていた」
「うん。おはよう。顔洗っておいで。寝癖すごいよ」

 ぴょんぴょんと跳ねている彼の髪の毛をゆるりと撫でて、洗面所へと背中を押した。准は緑茶、私はほうじ茶。それぞれをグラスに注いで食卓まで運ぶ。様々な連絡が絶え間なく来るせいで明るくなりっぱなしの准の携帯電話をひっくり返してやった。この部屋でだけは彼に十九歳の少年でいてほしいと願う。

「あー…」
「なに」
「また作らせてしまった…すまない、ありがとう」
「どういたしまして。別にいいよ、一人分も二人分も変わらないから」
「寂しいことを言うなぁ」

 顔を洗っていくらかしゃっきりした表情を見せた准が寂しげに笑う。私は准を、可愛い可愛いと閉じ込めたりしない。格好良いと持て囃したりもしない。努めて、ドライに。彼の重荷にならないように。これが最善策であると知っているのは私だけで良い。

「寂しいと思ってくれて嬉しいよ」
「いじわるだな!」
「ふふ。准がそう思うならそれでいいんじゃない」

 取り分け皿を使わなくなった私達の、恋人にしては少し遠い距離感。詰めたい准と、冷たい私。いつか隣に並んだときに、幸せになるのは准だけでも良い。

「しあわせだ」
「まだ食べてないじゃん」
「味の話をしてるんじゃないからな!」
「そうですか」

 准の幸福が私の生きる希望なことは、墓まで持っていこう。

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