その眠たげな瞳にも綺麗なピンク色が映っているのかと思えばどうしようもなく愛しくなった。クリーニングから返ってきたばかりのパリパリの制服に身を通している彼はいつもより幾分か大人っぽく見える。…制服を着ているのだから、彼が高校生なのはどうあがいても変わることはないのだけれど。

「どうかしましたか?」
「ううん。 鋼はもう受験生だな〜って思ってね」

ひらひら、桜の花びらが川に落ちていくのを見届ける。流れに逆らうことをせず流れていく淡いピンクはとてもきれいだ。白ともピンクとも呼べるほど淡いそれは消えてしまいそうで、けれど確かな赤が私の中の何かを刺激する。奮い立たせてくる。当に終えてしまった学生時代が走馬灯のように浮かび上がってくる。きらきらしていた、とは言い難いけれど確かに楽しいものだった。高校生の時がいちばん楽しかっただなんてことを言う虚しい人間になるつもりはないけれど、それでも、まあ、学生ってだけでブランドものだよなあ、なんて。目の前にいる現役男子高校生からしたら私なんておばさん同然の存在だろうに、鋼は私の傍を離れることはなく、正直お手上げ状態である。…年の差とか、気にしないタイプなのはわかっているんだけれど。

「…俺が大学に受かったって、あなたはもういないでしょう」
「そうね〜 院に進むつもりはないし、どうしようかな」

ふわふわ、逃れる。まっすぐな視線がこわくて、目をそらす。こうやって逃げておけば核心を突かれないことを私は知っているから。ずるい女。でも、いいの。それでいいよ。あなたには私の知らないところで私の知らない綺麗で控えめで、家事のできる素敵な女の子と幸せになってほしいもの。だからこんなちっぽけな私の背中ばかり追わないでほしい。もっと自分に見合った、きちんとした女性のことを、すきになってほしい。 中途半端で戻ることもできず前に進むのもこわい私なんかじゃなくて、もっと、もっと素敵な人と。

そうすることで救われるのは、どうしようもなく私なんだけれど。

「どこに行こうと、どこまでも追いますよ。逃げられると思わないでください」
「しつこいね、鋼は」
「なんとでも言ってください。あなたが俺のことを考えてくれないのが悪い」

鋼は意外と頑固だし、恥ずかしいことを真顔でけろりと言ってのけてしまう。鋼のことを考えてないんじゃなくて、考えすぎてだめなんだととは言えないまま、散りゆく桜のように鋼の心もすこしずつ散っていけばいいのにと、願う。今すぐは、やっぱり少しさみしいから。

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