金曜日の3限目、眠気も気だるさもちょうどピークに達する時間帯に割り当てられてしまった自習。こうとなっては眠るしかない、と意気込んだものの監視役の教師がいたのでそういうわけにも行かず。テストはまだ先だし、どうせボーダー推薦を使って大学に行こうと思っているし、なんとも身の入らない無駄な時間。これなら学校を休んで研究室にでも篭れば良かった、と思っていた矢先。教師の目をものともせず寝こける陽介を笑いながら、公平が私に話しかけた。

「抜けだしちまおうぜ」

公平がこういう事を言うのは珍しいと思った。だから素直についてきてしまった。ボーダーからの呼び出しで、と言えば教師は何も言わないのを良いことにふたりで教室を堂々と抜け出した。そもそもA級1位の隊に所属している公平と、自分のラボさえ持たない一般エンジニアの私が一緒に呼び出されることなんてほとんどないに等しいので、見る人が見ればすぐにバレてしまうことだろう。それでも良いと思えるほど、公平からの誘いは甘美なものに感じられた。不思議な魔力を持ち合わせているみたいだった。

「公平、そっちはダメだよ」
「いいからいいから。絶対気に入ると思ったんだよ」

いまいち噛み合わない会話。連れられた先は警戒区域の奥の奥、ボーダー隊員でもほとんど寄り付かないであろう場所だった。廃墟となってしまった住宅がまばらに聳え立つ中、公平が屋根の崩れた家へと入っていく。こんなところで見失ったら大変だ、と慌てて彼の背中を追いかけた。

「ほら、ここ」

風鈴の音がした。どうやら吊るされていた場所は崩れていないらしい。おいで、と言わんばかりに私を呼んで隣を叩く公平が寝転がっているのは大きなベッドだった。少し埃が被っているが、使い込まれた様子はない。新居だったのだろうか、何も置いていない空き部屋のような場所もある。そう思いながらも彼の隣に寝転がれば視線の先には青い空が見えた。綺麗だ。

「こういうロマンチックなの、好きじゃん?」
「うん、まあ、そうかも。ちょっとスリリングだけど」
「そこがいいんだろ。夜なら星が見えっかもな」

公平なりの、次へのお誘いだと捉えた私は返事をする代わりに彼の指先を握りこんだ。少し赤くなった頬を隠すように顔ごと背けられてしまう。学校に嘘をついて抜け出し、任務でもないのに警戒区域に入って、知らない人の家だった場所で寝転がっている。悪いことをしている、という感情がチリチリと胸を焦がした。

「陽介が起きたらどうするの」
「誤魔化してくれるだろ、たぶん」
「誰かに見られてたら終わりだね」
「そんときゃ一緒に怒られようぜ。共犯なんだからよ」

そうだね、と返事をして目を瞑る。陽射しの温度が心地よくて眠ってしまいそうだ。眠たくなった私を見兼ねて公平が緩く笑い、それからぎゅうと抱きしめられる。綺麗な音を聞きながら、互いの体温を溶かし、分け合い、同じになった所で意識を手放す。おやすみ、公平。起きたら一緒に怒られようね。

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