窓から蛍が見えて、川のせせらぎが聞こえる。残った晩御飯をタッパーに詰めながら、ロマンチックな夜だな、なんて思う。お風呂から上がったばかりの准くんがぺたぺたと足音を立ててソファに座る。

「アイス、たべる?」
「ああ。ありがとう」

うん、と小さく返事をして冷凍庫からカップアイスをふたつ持ってソファまで戻った。こっちがいい、なんて言わずとも抹茶味を受け取った准くんが再度「ありがとう」と微笑む。頷いてから自分の手元に残ったチョコレートの味がする氷菓を掬って口へ運んだ。このために晩御飯を少し残したようなものだ。准くんがお仕事関係の人にもらったと持ち帰ったアイスは、お高い味がする、ような気がした。

「ひとくち」
「ん、うまいか?」
「うん。准くんも」

ひとくちずつお互いの味を交換し合って、それから抹茶味に少し顔を歪めた私を見てカカオを含んだ准くんが笑っていた。嘘をつくのはご愛嬌。お風呂上がりで火照った指先の熱で、アイスが柔らかくなるのは早い。

あっという間になくなってしまったそれに少し寂しくなりながら、カップを丁寧に洗ってゴミ箱へ。互いにまだ少し髪が濡れているというのに、准くんは玄関で靴を履いていた。

「散歩、行かないか?」

断られるなんてひとつも思っていないんだろうな。と、声には出さずに薄いカーディガンを羽織ってから差し出した手を受け取った。准くんはスニーカーを履いていたが、私は面倒くさかったのでサンダルにした。ぬるい風が頬を撫でて、目を細めた。

「すごいな、蛍が沢山だ。蝉の鳴き声も大きい」
「田舎だからねぇ」
「なんだか空気が美味しい気もするな!」
「三門に比べりゃそうかもね〜。…あした、向日葵見にいく?晴れてたら」
「ああ!行こう!」

見るもの全てに目を輝かせ、感想をひとつひとつ口に出す准くんは小さな子供の様だった。

実家に着いてきてくれないか、という願いにふたつ返事で了承してくれた。と言っても、両親は既に死んでしまっているし、遺ったのは家を偶に掃除しに帰る程度で大きな用事がある訳ではなかった。それでも今後を共にしたいと思う人に、私の生まれ育った場所を知って欲しかったのだ。

「すごいな、空が綺麗だ。星がうんと近く見える」
そう言って真上に手を伸ばす。星を掴みたいのか、手を開いたり閉じたりさせていた。
「三門、帰りたくなくなるでしょ」
「…そうかもしれないな」

伸ばした手をそのまま私の頭の上へ下ろし、ぐしゃぐしゃと頭を撫でられた。そっとふたりの影が重なって、それから離れていく。准くんは私の言いたいことも、言いたくても言えないことも、理解しているようだった。

「それでも俺は、お前と一緒に三門で暮らしたいと思うぞ」
「………うん。帰ろっか」

自然と絡まる指先には互いに力が込められている。わたしたちは、きっとどこへも逃げることができないのだろう。それでも、私と一緒を選んでくれることが嬉しかった。



*さよならとメーデー/Sori Sawada

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