「はぁ〜びっくりしたな、簓のラジオ。あいつらしいっちゅうかなんちゅーか…。まあ、あいつのことやし、さすがにおもろかったな。……って、おい!な、なに泣いとんねん…!」

ほなね〜、と終始明るい声でテンポよく、聞きやすく構成されたラジオを聞き終わって号泣してしまっていた。気づいたろしょくんが慌てて私にティッシュを箱ごと差し出し、何が原因かと簓さんのラジオに寄せられた質問をいくつか提示してくるが、どれも不正解であった。ぐじぐじと泣いてしまい、嗚咽で喋ることもままならない私の背中をそっとさすり、言葉にならない泣き声のようなものを優しい相槌で拾ってくれている。

そっと、手を伸ばしてろしょくんの細長い指にするりと自分の指を通す。絡めるように握りこんで、それから数秒 彼の体温。手首からとくとくと響く生きている証拠。それに酷く安心して、ぽたり、と涙が彼のパジャマをまた変色させる。ろしょくんは紫、私はピンク。渋る彼を強引に説得して買った、揃いのものだ。

「ろしょくん、」
「ん…どうしたん」

来週、行かないで。


なんて言えない。これも彼の大事なお仕事のひとつだとわかっているからだ。それに、私が引き止めたってろしょくんを困らせてしまうだけだ。中途半端なことを嫌う彼が、私のたった一言で一度引き受けた仕事を断るわけなんてないのに、なんて最低なわがままを言おうとしているのだろう。自分で自分が嫌になる。でも、今日のラジオの簓さんは、明らかに私が普段会う簓さんとは違っていた。テレビに映る時のような、お仕事の顔の簓さん。プロのお笑い芸人さんだし、それは分かっていたけれど、これが来週、ろしょくんにも降りかかるのだと思えばこわくてたまらない。私の知らない声で、私の知らない表情で、私の知らないどこかへ行ってしまうのではないかと、そう思ってしまったのだ。

醜くて浅ましい、嫉妬と独占欲。それから、どうしようもないくらいの寂寞のさびしさ。

「…来週の月曜、休み取れるか?」
「えっ…?」
「東京、一緒に行こか。次の日も仕事やからとんぼ返りにはなってまうけど、夜ご飯食べてお土産買うてくる時間くらいあると思うねん。…なぁ、俺な。お前にいやや、嫌いや、どっか行け言われてもな、お前から離れる気なんてひとっつもあらへんよ。例えお前が俺の事嫌いになった言うても、必ずもっぺん好きにしたる。そんくらいお前のこと好きやねん。せやからそないに寂しそうな顔せんといて? どこにも行かへんから。ずっと、ここにおるよ」

私が絡めた指をきゅ、と握り返してくれて、それから私が毎朝するように、前髪をかき分けて額にちゅ、と柔らかい感触。レンズ越しに細められた眼差しが、至極あたたかくて。どうしようもなく、うれしくて。

「ろしょくん…」
「おん。なぁに」
「だいすき………」
「アホ。そんなん知っとるわ。俺もそう思っとんの、知らんのはお前の方やん」
「し、しってる、もん…」
「ん。ならええねん。知らんくてもなんべんでも言うからな、覚悟しとき。…好きや。この先、ずっと、何より大事にしたい思うとる」

絡まっていない手が私の後頭部にまわりそっと抱き寄せられて彼のにおいでいっぱいになる。くしゃくしゃと頭を掻き混ぜるように撫でられて、それから旋毛にそうっと降ってくる唇。

「あした、おやすみ申請してくるね」
「遅番やったっけ? 飯つくって待っとるね」
「うん!」

見上げた先の世界で一番愛しい人の唇に自分の唇を重ねる。世界にたったひとりだけ、彼だけが私の幸福を握っていた。

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