「ただいまー」
「おん、おかえり。ちょっとここ座り」

土曜日の仕事終わり、普段はあんまり見ない私服姿のろしょくんが怒った顔で私を床へ座るように促す。今日は起きて仕事に行って、何事もなく帰宅しただけであるのでろしょくんが怒っている理由がわからない。第一声におい、と飛んできた訳では無いのでとってもとっても怒っている、というわけではなさそうだけれど。

「今日、俺休みやったやん」
「うん」
「…昼 何食うた?」

え、おひる? と声が出る。短い肯定の言葉が返ってきて、不思議に思いながらも口を開く。

「カップラーメン食べたよ。今日はしょうゆにした」
「……普段は弁当食っとるよな?」
「? うん。ろしょくんと同じ中身のおべんと食べてるよ?」
「っ、はああ…。いや、ちゃうねん。お前に怒っとるんやないんよ。不甲斐ないのは俺や」

ガシガシと頭を掻きながらそう言ったろしょくんの言葉の意味するところがわからずに首を傾げてみるも、表情が柔らかくなることはない。ろしょくんが不甲斐ないなんてこと、私は今まで思ったことが一度もない。

「…いつも弁当作ってくれてありがとう。毎日うまいし、俺が見てもわかるくらいバランスええし、ほんっまに感謝しとる」
「へへ、照れますなあ」
「やからせめて土日は俺に作らしてくれ」
「えっ?」
「お返しになるとは思っとらん。でも俺もお前に喜んでほしいんよ。俺ばっかりええ思いしとって、今まですまんかった」

ばっ、と勢いよく頭を下げたろしょくんを慌てて止める。真剣な顔を崩さない、浮かない表情と目が合って思わず笑ってしまった。ああ、ろしょくんって素敵な人だなあ、と胸に花が咲く。

「…何笑っとんねん」
「んひひ、うれしいーっておもって!ろしょくんのおべんと、たのしみ!」
「あんまり期待しすぎんといてや」
「ね、ろしょくん。私も毎日、ありがとう!」
「は?俺はまだ弁当つくっとらんぞ」

意味がわからない、とでも言いたげなろしょくんに腹を抱えて思い切り笑う。これだからろしょくんが好きなんだ。



「…はよ起きんと朝飯食う時間なくなるで」
「んん〜…?」
「手のかかるやっちゃな」

ばさり、と布団が引き剥がされ布団の中より冷たい空気が全身を襲う。脇の下に手を入れられ座らされて「わ」と声が出る。追いついていかない思考の中、視線の先にはもう既にいつものオールバックをきっちりセットしたろしょくんがいてぱちぱちと瞬きをした。あれ、今日は日曜日だから、いつもだから私が起きるまでろしょくんは寝ているのに。

「おはようさん。顔洗ってき。寝癖、酷いことなっとるよ」
「え、え」
「なんやもう忘れたん? 弁当つくる言うたやんけ」

ほら行った行った、と洗面所まで促され冷水で顔を洗ったところでようやく昨日の会話を思い出して納得がいく。あの言いぶりだとお弁当どころか朝ごはんまで作ってくれたらしい。なんて優しい人なんだ、とシャッキリした頭でリビングまで戻ればほかほかのごはんと焼き魚におみそしる。私の好きなしょっぱい味のたまごやき。

「ん、起きたか」
「うん!おはよぉ」
「おん。おはよう。…いただきます」
「おいしそ〜!いただきます!」

ぱくぱく、もぐもぐ。どれを食べても美味しくて、それを何度も声に出す。満更でもない表情をしたろしょくんがこちらをじっと見つめながら食べるものだから、私も同じことをし返してしまう。夕飯は早く帰ってきた方がつくるルールになっているが、ろしょくんがこうして朝ごはんをつくってくれたことはなかったかもしれない。あるとすれば、偶にお休みが被った日に昼まで寝てしまったときくらいだ。私の味付けより少しだけ濃い朝ごはんたちからは、幸せの味がする。


「ん、これ弁当。気をつけてな」
「うん、ありがとう!行ってくるね」
「行ってらっしゃい。帰ってくるの待っとるね」

ああはやく、お昼休みにならないかなあ!


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