髪を切った。特に理由はなかったが、結構バッサリ切った。肩にすらつかない軽くなった頭をふわふわと振り、彼の帰りを家で待つ。華の金曜日、先生ともなれば業務に付き合いに色々大変だろう。早く帰ってこないかな、と先程から何回目だろうか。彼の好きなプリンを2つ買って冷蔵庫にしまった。いつもとは違う香りのする、美容院特有のいい匂いに浮き足立っている。今から帰るのメッセージが来てから30分は経過している。そわそわと落ち着かずにクッションを抱きしめてみたり、テレビのチャンネルを変えてみたり。玄関からガチャガチャと鍵を開けようとする音が聞こえてきて脱げるスリッパを気にも止めず彼の元へ走った。

「ただいま〜って、う、オイ!」
「ろしょくん、おかえり〜!」
「飛びつくなや危ない。はいはい、ただいま」

疲れた表情をしながらも飛びついた私を甘んじて受け止めてくれた盧笙くんに擦り寄る。ふと彼がいつものように私の頭に手を乗せて、撫でる。どんな反応をするかな、と彼の方を抱きついたまま見上げれば視線がかち合った。一呼吸置いて大きく見開かれた目。撫でるのを止めた手のひら。あれ、今気づいたの? と首を傾げれば強い力で体を引き剥がされ、肩を掴まれたまま彼の大きな声が飛んできた。

「おまっ…なんでや!」
「えっ。えっ?」
「俺は考えへんからな。まず理由から教えてくれへんと話にならん」
「ろ、ろしょくん?」
「もうお前ん中でけじめついた言うことか? なぁ、俺の何があかんのや」
「えっ、いや、なにも…」
「言いたいことは言うてくれた方が俺も改善できて嬉しい。遠慮せんでほしい、ほんまに。俺はお前のことが好きやし、これからもずっと一緒におりたいって思っとる」

盛大な勘違いをしたまま進んでいく会話にカッと熱が上がる。もちろん彼の言う不満や遠慮はひとつもないし、無論私も彼と一緒にずっといたいと思っている。だからと言ってこんな形で言われるとは思うはずもなく、恥ずかしさと嬉しさで上手く頭も口も回らない。怒りのような、悲しみのような、焦りのような、歪んだ表情を見せる盧笙くんにどうしていいかわからず、そっと1歩だけ近づく。彼は引きも離れもしなかった。

「ろしょくん、私もずっと一緒にいたいって思ってる」
「…せやけど、」
「ほんとはちょっとだけ切ろうって思ってたんだけど、どうせならショートも可愛いかもって思って、その、」
「……は?」
「で、出来心で…。ろしょくん、ショートカット、嫌いだった…?」

心底臆病がちに問われた質問に、拍を置いて帰ってきたのは大きな溜め息だった。
全身の力が抜けたのか、そのままこちらに倒れ込んでくる自分より大きな体を必死に受け止める。よろける前に腰を支えられ、彼の脚に再度力が入る。あわあわと彼の行く末を見守っていれば、至近距離で彼の吐息が感じられた。

「まじ…焦ったわ………」
「え、えへへ。その…ごめんね?」
「いや。謝ることやない。俺の勘違いやん。はっず」
「でも、その、嬉しかったよ」

そう言えば強く抱きしめられ、そりゃよかった、と彼が耳元で笑った。すん、といつもと違う匂いを嗅がれ、彼が興味深そうに私の髪を摘む。「プリンあるよ」と言えば嬉しそうに彼は笑った。

「あ、」
「なーに?」
「似合うとるよ、短いのも。どんなお前でも好きに決まっとるやん」

ああ、もう、本当に、この人は…!


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