ギャンギャンと泣く赤子のように勢いよく振り続ける雨を見てもう何度目かわからない溜め息が口から滑りでる。久しぶりのデートだと言うのにこの天気。それから多忙の彼は突然打ち合わせが入り遅れてくるらしい。見当もつかない待ち時間を潰すべくカフェに入って彼の大好きなクリームソーダを頼む。しゅわしゅわ甘くて、冷たくて、美味しいけれど、寂しい。ぶくぶくとお行儀悪くストローから息を吹き込み、拗ねていても仕方ないからと予定変更せざるを得なくなったデートのことを考えることにした。

遊園地、バツ。雨降りは楽しくない。ショッピング、バツ。室内だと彼がファンに気づかれた時に逃げにくい。ゆっくりご飯、バツ。どうせ何か食べてくるに決まっている。お家でだらだら、サンカク。簓くんはお家に私を上げてくれたことがない。私の家は散らかっているので今はあんまり来てほしくない。………八方塞がりだ。

化粧品がいくつか入っているポーチだけ持って御手洗へ行く。クリームソーダのバニラアイスにいくらか奪われてしまった紅を引き直し鏡の前で口角を上げてみるも、不機嫌が透けて見えた。簓くんが悪い訳じゃないのは百も承知であるというのに、なんて可愛くない女だろう。

「おかえり〜」
「えっ」

席に戻る数歩前に聞こえてきた柔らかな声。驚いて顔を上げればせめてもの変装でキャップを被った簓くんが私が座っていた椅子に座っていた。ひらひらと手を挙げて反対側に座るように促される。こんなに早いとは思っておらず困惑ばかりが頭を埋めつくしていた。

「ごめんなぁ、遅なって」
「ううん、簓くんのせいじゃないから」
「ところで簓さんは怒っとるんやけど」
「え」
「なんでやと思う?」

にこにこにこにこ。彼の表情は至極穏やかであるように思えた。キャップのせいで前髪が目にかかっており、発言も相まって不安を煽る。どちらかというと怒って良いのは私の方であって、簓くんが怒る理由なんてどこにもないのではなかろうか。今日のこと、ここ最近のことを思い返してみても特に心当たりはない。そもそも簓くんとは会っていないんだから、怒られる理由もないはずだ。

「お待たせ致しました、ホットココアです」
「おおきに〜! あ、彼女にやってな」

店員さんが差し出してくれたホットココアを受け取り、思わず首を傾げて彼を見つめた。私の飲みかけの、もう半分くらいしか残っていないクリームソーダを吸っている。新しいものを一緒に頼まなかった理由も、わざわざ私の飲みかけを口にする理由も、何もかもわからない。

私って、簓くんのこと、全然知らないのかもしれない。恋人なのに情けない。

「あんなあ、まずトイレ行く時は貴重品持ってかなあかんやろ? いくら店内にお客さんあんまおらんゆうても盗まれたりしたらどうするん」
「え、あ、ごめんなさい」
「おん。あとな、寂しいときは言うてくれへんとわからへんねん」
「う、え…?」
「クリームソーダ、飲まへんやん」

ずずず、とグラスを空にした彼が言い放つ。カラン、とスプーンの音。

「…寂しくさせとるのは俺なのに今のは勝手やったな。すまん」
「…ううん」
「なまえ。俺ら、恋人………で、ええんよね?」

不安がちに吐き出された言葉にハッとして、息を呑んだ。なにも、私だけ、彼だけ、ではないのだ。今日はその擦り合わせをしようとホットココアを飲み込んだ。

「うん。簓くんの家に行きたいな」
「ん、ええよ」


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