シャボン玉したい。
と、言い出したのは数分前の事。すっかり外に出る準備をし終えた彼女がにこにこと笑って俺の支度を待っていた。これまた突拍子もないことを言いだしたなあ、と思いつつもやると決めた彼女には制止の言葉が効かないことを知っているので身支度を整える。最近仕事が忙しくてあまり一緒にいられなかったからか、お家デートがいいと言ったのは彼女の方だった。家から一番近いコンビニに入り文房具コーナーの隣にしゃがみこむ彼女を見つめる。

「最近はコンビニにシャボン玉なんて置いてあるんやな」
「そうだよ? ろしょくん知らなかったの〜?」
「知らんやろ、買わんし。色々あるんやねえ、これとか割れにくいん?」
「それは割れにくいんじゃなくて割れないの!」
「割れないって、シャボン玉は割れるやろ」

わかってないなあ!と彼女が頬を膨らます。割れないシャボン玉ってなんやねん、とそれを手に取るが彼女がすぐに棚に戻してしまう。どうやらやりたいのは割れる方のシャボン玉らしい。幼い子供が使う用の小さなカゴの中にそれを入れて、それから俺の手を取って飲み物コーナーへ。生徒にでも見られたらどうすんねん、と言おうとした言葉は彼女の嬉しそうな表情に飲み込まれてしまった。

「ろしょくん今日はビール飲む?」
「いや、ええかなあ」
「はあい」

俺が好んで買うお茶を三本程カゴに投げ入れたところで彼女の華奢な腕から小さいカゴを奪い取る。わ、と間抜けな声を無視して紙パックのアップルティーとココアを投げ入れた。新登場、のキラキラしたポップの傍にある炭酸飲料を見て数秒悩んだあと、飲まんやろなぁと顔を見れば、頷かれる。あとはチョコレートとプリンと、と菓子コーナーへ向かう。

「ろしょくん、プリン新作でてるよ!ろしょくんすきそう!」
「ほんまや。ん〜、これお前あんま好きじゃなさそうやなぁ」
「チョコ買ったからいいよ、あ、チーズケーキたべたい」
「ん。俺はいつものプリンでええわ」
「え〜、いいの?新作だよ?」
「お前と半分できんくなるからええの」

そう言えば驚いたように目を見開き、えへへ、と真っ赤な顔して彼女が笑った。かわええなあ、と耳元に手を伸ばしするりと一撫で。擦り寄ってくる姿にまた笑ってからお会計へ。ピ、ピ、と店員がバーコードを通していくのを興味津々に見つめる姿はいつ見ても面白く、好奇心旺盛なのはええことやなあ、ともう何度目になるかわからない。

「ベランダでやる? 公園でやる?」
「折角やし公園行こか? お前あれ好きやろ、ブランコ」
「好き!押してくれるの?」
「しゃあないなあ」

やったー!と両手を上にあげて喜ぶ姿を幼子の様だなと見つめる。一人で走ったら危ないやろ、と袋を持っていない方の手を差し出せば嬉しそうに絡まる指。年下とは言えど、成人済みとは思えんよなあ、と愛しい彼女の旋毛を見つめた。

「しゃぼんだま!」
「はいはい」
「はいは一回やないの〜?」
「俺の生徒の真似すんなや」

けらけらと笑いながらシャボン玉のパッケージを開封していく様子を見守る。蓋を開けて、備え付けの棒を中に入れ、それからふーっと息を吹きかける。色々な大きさの透明な丸がふわふわと宙に漂い、パチ、パチンと割れていく。たまにはこんな休日も悪くないなあ。

「ろしょくん、みて、みて、」
「見とるって。きれいやね」
「うん!ふわ〜って、ぱちんって!ろしょくん、おっきいのつくって!」
「できるかわからんぞ」

わくわくした様子で手渡され、ほんまに何年振りやかわからんわ、とそっと息を吹きかけた。少しずつ肥大化していき、ふわ、と宙に先程彼女が飛ばしたものより大きな丸が飛んでいく。

「わ、わ!おおきい!ろしょくん、みて!」
「見とる見とる。意外とできるもんやね」
「もっかい!ね、もっかい!」

誕生日ケーキを買って帰ったときのロウソクの時みたいやな、と一人思い出し笑いをしてからもう一度息を吹き込む。ふわふわと浮かんでは割れるシャボン玉を嬉しそうに見つめる彼女が愛しくて、容器を置いて袖を引いた。

「ろしょくん?なんしたの!」
「好きやな、思て」
「えっ!」

素っ頓狂な声を上げ、数秒フリーズした後に顔を赤く染め上げ、それから満面の笑みで「わたしもだいすき!」と返される。飛びついてきた彼女を受け止めて、容器を置いて正解だったなと思うのだ。

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