嘘というのは基本的には残忍さを持ち合わせているとおもう。うしろめたいことを隠そうとすることも、顔色を伺って真実ではないハリボテで取り繕ってしまうことも、当人にしてみてはそうでもないかもしれないが、相手方が気づいたときにどう感じるかは分からない。
これは私が考え込む性格をしているせいなのか、否か、未だにはっきりとはしない。けれど彼の大義名分みたいにもなっている『嘘』は簡単に誰かを傷付けることができるものだと、おもう。

「ああ、用意してくれたんですか」
「はい。もうすぐかと思って」

話しかけられた瞬間に私の手から離れていった掛け布団はふわりと床に落ちていく。寝巻きに包まれた彼は酷く無防備に見えるのに、その実まったく全てを晒けだしてなんかくれない。花開く寸前の蕾がパチンと刈り取られてしまうのは、他の花を大きく咲かせるため。彼の嘘は、ほんの少しだけ、それに似ている。

「泊まっていくんですか?」
「エッ、この時間から帰れって言うんですか? もう二時過ぎてますけど……ていうか、泊まっていけって言ってくれたんじゃないですか」
「はて、そうでしたかねぇ。出会った頃に比べたら随分厚かましくなったもんだ」
「馬鹿にしてます?」
「お〜こわいこわい」

それ以上何かを言われる前に電気を消せば、堪えきれなかったとでも言いたげにくつくつと喉が笑う音。突然の暗闇にまだ目が慣れていないのに、いとも簡単に布団に入れるのは染み付いた行動の証明だ。私と夢野さんの布団はもちろん別々だし、なんなら数センチ離してある。夜の帳に包まれるときもあるけれど、そういうことはあんまり多くない。互いの寝息だけが聞こえる空間が、私も、夢野さんも、愛しいと思っている。

「明日はあなたの好きな買い物にでも行きましょうか」
「う〜ん、はい」
「煮え切らないですね」
「だって夢野さん、明日は朝から打ち合わせがあるって言ってたから」
「……わかっていてイエスの返事をしたんですか? 意地が悪い」
「この場合いじわるなのは最初に嘘をつこうとした夢野さんだと思うんですけど……」
「なんだかお腹がすきましたねえ。寝るとしましょうか」
「誤魔化し方が雑」

全く眠くなさそうな声色で眠い眠いと言い出した夢野さんに適当な相槌を打って目を瞑る。そのうち勝手にやってくる眠気を待ちながら、ふたり、の、空気を吸った。
例え、これの全てが嘘で、彼に利用されているのだとしても私は構わないし、私は私の全てをかけてそうじゃないと否定したい。夢野さんは確かに嘘つきだけれど、過ごした時間は本物だと思いたいし、それに。

「夢野さんは優しいですね」
「……頭とち狂ったんですか? 寝た方がいいですよ」

衣擦れの音がするから、きっと、夢野さんは私の顔をびっくりした顔で覗き込んでいるのだろう。瞼を持ち上げなくてもわかることが、あなたの優しさの証明になればいいのに。

「おやすみなさい、ゆめのさん」
「ええ、おやすみなさい。また明日」

明日が来るって信じさせてくれる優しい嘘の、残忍さは私が食べてしまったから。

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