「オイ、やる」
突然、本当に突然そう言って手渡されたのは前々から気になっていたブランドの紙袋だった。え、と声が漏れる前にソファにどかっと座った勝己くんは早く開けろと言わんばかりの視線を向けてくる。ありがとうも言えないまま焦って中を開ければ、小さな箱が入っていた。
「か、つきくん。これって」
私の代わりに箱を開けた勝己くんが、箱の中じゃなくて私を見ている。私はと言うと、箱の中に視線が釘付けになって離れない。ぴかぴか光るまあるい金属は、可愛いな、と思っていたピンキーリングだった。しかも肌荒れしにくい仕様のやつ。仕事柄いつでもアクセサリーが着けられる訳では無いからと、ずっとずっと買うのを我慢していたそれが、いま、私の目の前できらきら輝いている。明滅するように視界がチカチカした。
これが欲しいと口に出したことは一度もない。勝己くんに遠慮をしているわけではないが、甘えられるような立場でもないと思っているからだ。与えられるより、与えていたいと思うエゴ。世界を救う彼のことを、何より支えていたいと思うから、彼にもらうものは一緒にいられる権利だけで十分すぎて払ったものよりお釣りの方が多いくらいで、なんなら今は返済期間であるとすら思っている。せめて安らかな空間を。家の中でくらいは居心地の良い状態を。そればかりを考えて生きているから、突然のプレゼントに思考が追いついていかない。
勝己くんが私を愛してくれているのは知っている。けれど私は、ずっとその理由がわからないし、愛してくれなくとも良いと思っている。あなたの隣にいられればそれだけで良い。それしか要らない。
「ンとはここにつけてやりたかった」
そう言ってトントン、と硬い指が私の左手薬指を緩く叩く。そこが何を意図する場所なのか分からないほど鈍感でも子供でもなくて、尚更困惑した。優しくピンキーリングを手に取った勝己くんが、真剣な顔で私の小指にそれを通す。ぴたっとちょうどいい所で止まって、きらきら、きらきら、かがやき続けている。
「買ってやれねえものなんてねえ」
「うん?」
「でもお前が欲しがらねえのもわかってるから、やる。……なまえ」
「は、はい!」
「もらってる。ジューブン。俺も」
べちん。デコピンの音がして、額に痛みがやってくる。びっくりしておでこを抑える両手と、視界に過ぎるきらめき。
「ありがとう」
消え入りそうなほど小さくこぼされたそれを、掬った私が泣きだすまで、あと何秒?
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