わがままな性格だと思う。年の割に子供っぽいだとか、ついていけないだとか、そういった理由で友達や恋人に終わりを告げられることがよくあった。けれど、この衝動を止めることはできないのだ。

「勝己くん! アイス! 新しいの食べたい!」
「おー」

 恋人の勝己くん。年齢は同じ22歳。彼の職業はなんと世界中で大人気なプロヒーローだ。私と勝己くんが出会ったのは道端で、買いすぎたショッパーを両手にいっぱいぶら下げて歩いていたときだった。目の前に『欲しい』や『したい』があると我慢できなくなってしまう私は両手いっぱいの荷物を忘れて美味しいクレープ屋さんの屋台を見つけてしまったのだ。食べたい! と思ったときには足が絡まっていて、荷物のせいで手でバランスを取ることができずに転倒。しそうになったところ、ちょうどオフだったという勝己くんが支えてくれたのが始まりだ。なんてロマンチック!

「何味にすんだ」
「新しいの!」
「ん」

 いつもは迷わずつぶつぶがいっぱい入ったストロベリーを選ぶんだけど、今日は新作のキャラメルにするしかない。屋台のお姉さんが小さく「ダイナマ……」と呟いたのを目敏く聞いた勝己くんがひらひらと手を振っていて、ファンサービスだ! とキラキラ目を輝かせる。今まであんまりヒーローに興味がなかった私だけれど、彼と出会ってからは食い入るようにテレビでヒーロー特集を見ている。勝己くんのお仕事は、とってもかっこうよいのだ。

「おら、座っとけ」
「お金はらう〜」
「後でいい」

 そうやって言ってさっき食べたランチのお金も受け取ってくれていないくせに。言わなくても表情でわかったのか、しっしと手をはらわれてしまって大人しくベンチに座る。勝己くんの腕には彼には非常に似合わない可愛らしい柄のショッパーが3つもぶらさがっていて、自分で持てるのになあなんて思ったりして。アイスをふたつ持った彼が戻ってきてその片方を差し出してくれたので喜んで受け取った。

「おいしい……! これおいしいよ」
「おー、よかったな」
「でもいつも食べるストロベリーもおいしい! これは次から迷っちゃうな……。ああいつものも食べたくなってきた」
「ン」

 口の前に差し出されたのは勝己くんが食べていた、私がいつも食べるストロベリーのアイスだった。勝己くんのゴツゴツした指が可愛い色のアイススプーンを持っているのがすごく可愛い。こうやって一口くれるのが嬉しい。ありがとうって言えばいいのか大好きって言えばいいのか悩んでいれば「はやくしろ」と言われてしまって慌ててスプーンをくわえる。いつものストロベリーもやっぱりおいしい。

「ありがとう!」
「おう」
「キャラメルどーぞ!」
「ん……。あー、好きそ」
「好き!」

 ニコニコしながらアイスに夢中になっていればあっという間にカップの底が見える。ふたりで綺麗に食べ終わって屋台のお姉さんにごちそうさまでしたを言いに行った。次はどこに行こうか聞こうとしたときに、ぐっと引っ張られる袖。勝己くんみたいな優しい触れ方じゃなくて体が少しよろめいた。

「久しぶりじゃん。元気してた?」
「………………………………うん」

 へら、と胡散臭い笑顔を貼り付けて話しかけてきたのは前に付き合っていて男の人。所謂元カレと言うやつで、最高に気まずい。勝己くんは今アイスのゴミを捨てに行ってくれている。鉢合わせなくて良かったと思うべきか、一緒にいたら声をかけられなかったかもしれないと思うべきか。

「何してたの? デート?」
「えっと、うん、そう。デートです、ので」
「へ〜、俺以外に彼氏できたんだ! ちゃんと大事にしろよ? お前すぐわがまま言って困らせたがるだろ」

 困らせたかったわけじゃないのにな。そういう風に思っていたんだ、というショックとそういう風に思われていたらどうしよう、というショックが一緒になって襲ってきて今すぐにでも走って逃げ出したくなった。喉が張り付いて、声が出なくて、泣きそうになる。ああ、この人、私が泣くと面倒くさいって言ってたな、なんて今思い出してもしょうがないことばっかり思い出して嫌になる。

「おい」
「えっ、ダイナマ?」
「…………どーも。行くぞ」
「あ、うん」

 眉間にこれでもかってほど皺を寄せた勝己くんが、表情や声色とは裏腹に私の袖を優しく引いた。足が絡まらないように必死に彼を追えば、するすると肘くらいから腕を辿られて指が絡まる。外ではあんまり手を繋ぎたがらないのに。そこまで考えてハッとして、ごめんね、って言おうとした唇は勝己くんに塞がれてしまった。……えっ。なんでいま、キス? ここで?

「さっきの、誰」
「ま、えにつきあってたひと、です」
「……何言われた?」

 なんと誤魔化そうか必死に言葉を探したけれど、この人に嘘をつきたくなくてやめた。素直に全部を話せば、勝己くんは大きい大きい溜息を吐く。てっきり、怒られたりするものだからびっくりした。

「俺は」
「は、はい!」
「お前のそういうとこ、俺のこと好きってわかりやすくて、いいと思ってる」
「……へ」
「欲しいって顔してんだろ。俺様が欲しいだなんてテメェは欲張り女だなあ?」

 ガシャって音がして、ショッパーをぶら下げたほうの手の平が私の頭をやさしく撫でる。わたしってほんとうに、欲張りだ。

「欲張りじゃだめ?」
「だめならンなことしてねーっつの」
「わがままでも許してくれる?」
「ア? 俺といい勝負だろうが」

 勝己くんも自分のことわがままって思ってるんだ! って素直に言ったら怒られた。ああ、もう、幸せだなあ!

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