頭が痛いと言い出す予想がついたので頭痛薬を先に出して置いておいた。作業部屋に籠もってから早数時間。未だ出てくる様子がないので先に眠ることにする。時刻は既に朝を迎えかけていて、早く寝ておけば良かったといつも思うのに、結局いつも待ってしまうのだからこればっかりはどうしようもない。歯を磨いて、ナイトキャップを被って、リップスクラブを唇に乗せてから目を瞑った。どろりと溶けていく思考はすぐに眠気を運んできて、ああ、朝ごはんでもつくってあげればよかったと体が動かなくなってから後悔する。起きる頃には昼を過ぎているだろうか。それまでには彼も眠ることができるだろうか。

「なまえ、寝るの?」
「んん、ぁ」

 もう返事ができそうにない。視界の隅っこに乱数くんの顔が見えて、ぼろぼろなのに、きれいだ、と思う。まだ寝ないと言いたいのに体が言うことをきかなくて、どっぷりと夢の中へ沈んでいきそうになるのをすんでのところで乱数くんが引き留めてくれていた。薬を置いてあることと、朝ごはんをつくっていないこと。それから待ちきれなくてごめんねと伝えたいのに。

「じゃあボクも寝よ〜っと。わあ、なまえの足つめたい。靴下はきなよ」
「……ん、」
「寝てるし。も〜っ。しかもちゅーできなくなってるし!」

 ぷりぷりと怒った風を装って、その実ひとつも怒ってなんかない乱数くんが優しく布団をめくる。私の意識が覚醒してしまわないようにそっと隣に潜り込んで、冷えてしまった指先を包むこむように足が絡まる。身長は私のほうが高いのに足は乱数くんのほうが長い。細い腕が私をぐるりと取り囲んで、注がれるみたいな愛情にふたりでくるまっている。

「起きたらさ、ごはんつくってよね。あとおふろも一緒にはいろーね」
 返事ができない。でも、乱数くんはずっと楽しそう。
「インスタにアップするからさ、かわいいもの探しに行こうよ。夜明けの景色も見たいな。お花、枯れそうだから、新しいの買おうね」

 うん、うん、と心のなかで返事をしていく。どうしてか乱数くんには伝わっているらしく、声色はどこか満足気だ。かわいくつくられた手のひらが私の頭をやわらかく撫でる。どこもかしこもか弱いつくりをしている体を、愛せるようになったのは最近だと言っていた。どんな乱数くんでもきっと好きになる自信があったので、曖昧に返事をしただけになってしまったけれど。

「はあ、もお。好きだよ。おやすみ」

 うん、私も好きだよ。おやすみ、乱数くん。どうか良い夢を。

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