不自然な連絡を告げたスマートフォンを見て職場を飛び出した。今日は帰ってこないでくれるか、すまん。たったそれだけの連絡は違和感のみを含んでいて、こんな連絡が来て帰らないやつがいるかと半ば怒り気味に電話を鳴らすがそれが繋がることはない。やっぱり今朝方、彼の顔が赤いのは気の所為ではなかったのだ。寝起きだからちゃう、と適当にはぐらかされたのにちゃんと言及していれば良かったと後悔する。帰り道の途中にあるドラッグストアでゼリーと飲み物と市販薬を買って家まで急いだ。

「盧笙!」
「っ、なんでや…」
「なんでもクソもあるかい!」

 ベッドに横たわって苦しそうに息をする盧笙の額に手のひらを当てる。熱い。袖で乱雑に汗を拭い、冷えピタを取り出して貼った。私にうつすのが嫌だとでも言いたげな視線を無視してゼリー飲料を手渡し、飲み物を傍に置いてキッチンまで向かった。シンクが乾いているということはきっとなにも食べていないだろう。お粥をつくろうと鍋を取り出して水を入れたところでヘロヘロの盧笙がこちらへ向かってくるのが見えた。

「なんで!? 寝ててよ」
「すまん……」
「おたがいさまだよ」

 私が風邪を引いたときはお母さんより手厚く看病してくれるくせに、私にそうされるのは申し訳ないとでも言いたげだ。盧笙は滅多に風邪を引かないし、弱っているところも見ないが、人間なのだから生きていれば風邪を引くときだってあるだろうに。頼られないことが悲しいよと、治ったら言ってやろうと決めてお米がぐつぐつ言うのを見つめる。何味にしよう、梅でいいかな。

「ろしょー、何味がいい?」
「なんでもええ、すまん、」
「すまん禁止〜」

 やっぱり卵にしようっと。あとは柔らかくなるのを待つだけまでの状態にして鍋に蓋をし寝室へ戻る。ゼリーを飲んだのを確認して安心の溜め息が漏れた。

「熱はかった?」
「ん…」
「明日お仕事休めるかな」
「あかん…」
「あかんくないよ。生徒さんにうつしちゃう方があかんくない?」
「……」

 眉間にシワを寄せて黙り込んだ盧笙を見て、なんだか笑えてきてしまう。可愛いな、と場違いなことを思っては彼の頭をゆるりと撫でた。気持ちよさそうにして、眉間のシワがなくなった表情を見て嬉しくなる。お粥が柔らかくなるまで、ちょっとだけの間、私達は手を繋いで待っていた。盧笙の手が汗ばんでいて、熱い。この熱い指先が、私を必要としてくれていることが、嬉しい。

「つめたいわ」
「盧笙があついんだよ」
「はは、そうかもしれへん」
「うん」

 息まで熱い盧笙の、甘えると言うには可愛すぎる言葉に笑って、名残惜しくも手を離す。お粥を持って戻ってきた私に、彼は申し訳無さそうにありがとうと言ってくれた。

「あーん」
「自分で食える」
「あ、あ、ん!」
「…あ」

 彼が私を甘やかしたい気持ちが、ほんの少しだけわかったような気がする。早く良くなりますようにと心から思うと同時に、少しだけ可愛いと思ってしまうのだ。

「おいしい?」
「うまい。ありがとう」
「へへ」

 でもやっぱりいつもの盧笙が良いから、早く良くなってね。

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