視界を覆う、少年漫画に出てくるみたいな黒いロングコートと、私よりうんとずっと明るい髪色。風に揺れて、さらさら、きらきら。彼の手からは光のようなものが生成されていて、それが手から離れて、速度を上げて飛んでいく。バン、と大きな音がしたり、瓦礫の崩れる音がしたり、人の叫び声がしたりする。何が起こっているかわからないのに、いずみくんが格好良いことだけはわかってしまっていた。

「怪我ねえか?」
「うん」
「そら良かった。最近警戒区域外にも出るんだよな〜っと、はいはい、出水了解」

 耳元を抑えて、恐らく通信機か何かで話し始めたいずみくんに見惚れていればバチりと視線が噛み合った。いずみくんは私を見ながら何かを考えているようで、自然と見つめ合ってしまう。無言の空気は重くはないものの、どうして良いかわからなくて、彼の視界に自分が入っていることが、彼の目に私が映っていることが、どんどん恥ずかしく思えてきてしまう。

「トリオン兵に襲われるの初めてじゃない感じ?」
「え、」
「やけに落ち着いてんなって思って」

 いずみくんはそう言いながら、また何か光のようなものを生成し、こねこねと混ぜ合わせてどこかへ飛ばしていた。朝飯前だとでも言いたげに行われていく化け物の討伐行為は、彼が私と同じ人間ではないことの証明みたいに思えた。いや、血が通った人間だということは、わかるんだけれど、も。

「はじめてだよ、びっくりしてる」
「そっか。怖かったろ、ごめんな」
「ううん。いずみくんが謝ることじゃないし…それに」

 それに? といずみくんの声が続く。どこか遠くの光を見ていた視線が、再度私に移り変わる。

「いずみくんが来てくれたから、こわくない。…ありがとう」
「おっ……、おう」

 ふい、と視線が逸れていく。不快にさせてしまったかもしれないと思ったが、事実なので仕方がない。いずみくんはしばらく無言で光を飛ばしたあと、私の手を取って、引いた。簡単にぐらつく足元が優しく受け止められていく。耳元に唇が寄り、ちいさく、ちいさく、彼の声。

「逃げる」
「えっ…?」

 一瞬の隙間を縫って、いずみくんが私を抱えて空を飛んだ。正確には屋根と屋根を渡り歩いている、というべきか。彼の言葉の意味も、行動の意味もわからない。

「任務が終わったら迎えに来るから、ここで待っててくんねえか」
「は、い」

 そう言って降ろされたのは三門からは随分離れた場所のように思えた。少なくとも私が十七年間三門で生きてきた中では見たことがない場所だ。いずみくんはなにか慌てたような態度で、渡しにそれだけ言ってどこかへ飛んでいってしまった。身一つで地面に下ろされた私は、いずみくんが見えなくなるまでずうっと、彼の姿を目で追ってしまって。ああ、そう言えばボーダーの戦闘を見てしまった人は記憶が消されるって、誰かが言っていたような気がする。逃げるって、そういうこと? どういうことかわかんないよ、いずみくん、

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