手の平が告げる体温が自分と変わらないものになったとき、この手が三門の未来を救うことを理解しているからか、私が醜いからか、わからないけれど、どうしようもなく満たされてしまったような気がして、それがすごくおそろしい。

「なまえ?」
「うん」
「……いや、」

 言いかけた言葉の先がわかるのを知っていてそれでも飲み込む彼が愛おしい。ごめんねの意味を込めて目を合わせれば、ただ黙って首を横に振られた。ボーダーの周りは不自然に建物が少なく、それに伴って少し薄暗い。真夜中だからボーダーの人達すらもあまり居なく、そういう時は手を繋いで帰られるのが嬉しい。高校生が深夜に外を出歩くのは様々な理由から禁じられているが、ボーダーというのは本当に色んな所に顔も口も利く。

「ねむくねえ?」
「うん」
「そっか、よかった」
「こうくんは?」
「おれはへーき」

 きゅっと手に力が込められて、ゆっくり、ゆっくり握り返した。私達を照らすのは月明かりではなく街頭で、今日は生憎の曇り空だ。お星さまが見えない。

「おほしさまを、」
「……?」
「きれいだなって、こうくんの、あすてろいど」

 アステロイド。直訳すると小惑星。他義もあるのでボーダーがどれから取って名付けたかわからないが、粋なものだと思う。開発した人はきっと、きれいな思想を持っているのだろう。

「そんな綺麗なものじゃねえよ」

 悲しい顔をして少し語尾をきつくして吐き出された言葉に曖昧に頷いた。こうくんはきっと、これから先もずっとそう思って生きていくのかもしれない。でもわたしは、あなたが降らせたおほしさまを忘れることはできないの。
 それは私を守ってくれた光。点滅するような 明滅するような 爆撃のような 母親のやわらかい眼差しのような。

「なまえは覚えてないかもしれないけど」
「うん」
「おまえがおれを守ってくれたやつのほうが綺麗だよ」

 こうくんがあの日の話をするとは思わず言葉に詰まる。私がボーダーという非日常に触れることを極端に嫌がる彼が、きっかけの日を話すとは思わなかった。

「星なんて比にならないだろ、だってあれはおまえの」
「こうくん、そんなの、こうくんだって」
「……そうかもしんねえ、けど」



「似たもの同士だね、わたしたち」
「……おー」
「ふふ」

 きみのいのちにまもられている。

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