あれ、ねえ、どこに行くの。置いていかないで。
そう言ったは良いものの、言葉はどうにも届いていないようで、伸ばした腕は彼を掴むことはなく空を切ってだらりと落ちる。胸の奥が痛くて、息ができない。置いていかないって、言ったじゃない。



「おい、なまえ!起きろ!」
「っう………あ、れいじ…?」

ばちり、目を開ければ目の前には焦った顔をした恋人がいた。汗がべったりと全身にまとわりついていて気持ちが悪い。乱れていた呼吸をゆっくり整えていればレイジは私の背中をやさしくさすってくれた。…あったかい。

「うなされていたぞ。悪い夢でも見たか?」
「レイジが、ね、」

ぽつり、言葉に一度詰まってしまえばなかなかあとは出てこない。レイジが起こしてくれる直前のぐにゃりとした感覚が咽かえり、みっともなくぼろぼろと涙がこぼれた。夢の中でとはいえど、一度レイジのことを疑った身としてはどうしたって後ろめたい。その後ろめたさが私を不安にさせ、その不安は水になって外へ出た。レイジは私のことを黙って置いて行ってしまうような人ではないし、私の子供みたいな約束にもきちんと頷いてくれた。それなのに私は、まだ彼を、信じきることができていないなんて。

「言いたくないなら無理に言わなくて良い」

きっぱりと言い切られた言葉に私はあわてて首を振る。そうしても涙が止まるわけでもなければ、この後ろめたさがなくなるわけでもなかった。ごめんなさい、と飛び出た言葉はきちんと音になっていたかすら危うい。

「…はあ。まあ良い。一緒に寝てやるから。飯は後だ」
「え、ちょ、レイジ」
「なんだ? 一緒に寝ればこわくないだろう」
「そう だけど…」

真面目な顔をして一緒寝るだなんて言いだすものだから驚いてしまった。男女が同じベッドで寝て、それから起こることなんてひとつしかないはずなのに目の前の彼がそれをするとは思えない。もぞもぞと動いてレイジが入れるだけのスペースを開ければ何にも言わずに私の隣に寝転んだ。すぐに頭を持ち上げられたかと思えばゆっくりとおろされる。筋肉がついてごつごつとしたなんとも男らしい腕が私の頭の下にある。それからぽんぽん、と一定のリズムで腰のあたりを優しくたたいてくれる。なんでもないような顔をしてすでに目を瞑ってしまった彼に見習って私も目を瞑る。すぐに世界がまどろんで、隣に確かにある温かさに後ろめたさが解けていく。意識が途切れる寸前に音にした「すき」は、きちんと彼の耳まで届いただろうか。

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