熱が這い上がるように全身を伝って、じとりと汗が滲んだような気がする。一度気になってしまえば、もうそれしか考えられないというほどそればかりが脳内を巡ってしまって、衣服のどこかに汗が染みていやしないだろうかとずっとずっと不安になってしまう。隣を歩く夢野さんは焦る私とは真逆に、ずっと落ち着いた様子で穏やかな口調を崩さない。葉が落ちる様子を綺麗だという、その夢野さんの感性が綺麗だ。私よりうんと暑そうな格好をされているのに、汗のひとつも、その雰囲気すら感じさせない。

「角砂糖を切らしていたような気がしますね」
「スティックのやつがまだたくさんありましたよ」
「角砂糖が、切れていたような」
「はあい」

 私の気の抜けた返事を聞いて、夢野さんはいつも緩やかに笑う。実のところ私は会話にあんまり集中できていないのだが、どうやらばれてはいないらしい。先程から歩けど歩けどスーパーに一向につかない気がする。景色の流れがどんどんゆったりになっていて、歩くスピードが遅くなっているのだと漸く気づいた頃に彼の顔を見上げれば、口元が居心地悪そうにもごもごと動いていた。なんと声をかけるべきかよくわからなく、無神経なことを言ってしまっては困るなと口を噤む。靴紐の結び目が解けそうだなあ、と意識の余裕ができたところで人差し指に、そっと違和感が降ってくる。

 びっくりして足が止まる。私の動きが止まったことに気づいていて、夢野さんはなんにも言わない。人差し指と、人差し指が引っかかる。それから辿るように指が根本まで降りていき指の間を少し強めに押して、それから、それから。

 じとり、なんて可愛いものじゃない。ぶわわわと広がる手汗に血の気が引く。血の気が引いても汗は吹き出るのか。

「格好つかないものですねえ」
「へ」
「スマートに手を繋げたら良かったのですが…気恥ずかしい、ですね」

 視線が逸らされている。頬が赤いのは私だけではないようで、夢野さんが恥ずかし気に微笑みかけてくれて、思わず手に力が入ってしまった。指と指がぴったり合わさって、隙間がなくなる。指を絡ませる、という表現がきっと一番正しい手の繋ぎ方。恋人繋ぎってやつだ。

「砂糖を買って帰りましょうか」
「かくざとうですか?」
「上白糖でも良いですよ」

 二人の間に腕が宙ぶらりんになっていて、そこにきっと愛が詰まっている。恥ずかしさを誤魔化すように突然饒舌になっていく私達には、角砂糖より上白糖が似合うのかもしれない。

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