半袖をさらに捲くってタンクトップのように着ている二郎くんの肌があまりに眩しくて思わず目を逸らした。元々露出に抵抗が全くと言って良いほどないのか、自身の端正なつくりを理解していないのか、見せびらかしているつもりはないんだろうけれど、あまりに眩しすぎる露出に出すな〜〜〜! と大きな声で叫びそうになってしまう。そんなことを叫べる度胸はないので視線を不自然にならない程度に泳がせつつ、汗を拭うためのタオルを差し出しておいた。

「サンキュ」
「うん」

 二郎くんが家を訪ねて来たのは今朝のことだった。なんでも再来週にサッカーの大会があるそうで、朝に練習を付き合ってほしいから来た。となんとも強引な理由で6時にチャイムが鳴らされた。寝起きも寝起きだった私はパジャマで目を擦りながら相手を確認もせずに不機嫌な顔でドアを開けてしまい、居心地の悪そうに頬を指で掻く二郎くんと目が合ってひっくり返りそうになったのだ。玄関先で悲鳴を上げるわけにもいかず、どうにもできずに家に入れて、15分だけもらって急いで身支度を整えた。サッカーボールを持っているとはいえ、サッカーの練習をしに来た訳じゃないことはわかっているのに、私が二郎くんにかけた言葉は「公園行く?」だったのだから、どうしようもない。

「朝早くとか夜遅くはオトナがいねえと外で練習できねえから」
「えっ、うん」
「助かった」

 二郎くんが流暢に嘘をつける子だと思わなかったから素直に驚いた。本心なのだろうか。サッカーボールを公園備え付けの水道で洗いながら、太陽がどんどん上にあがってくるのを見て日焼け止め塗るの忘れたなあとぼんやり思う。二郎くんは今日、学校じゃないんだろうか。

「二郎くん、学校は?」
「あー…おう」
「……うん」

 明らかに言い淀んだのを聞いて、これ以上聞くのはやめよう、と彼が汗を拭き終わったタオルを受け取ってから公園の出口まで無言で向かった。私と二郎くんの家は逆方向にあるが、公園を出たあとも後ろをぴったりくっついてくる二郎くんが可愛らしい。大型犬みたいだな、と思いつつマンションの入り口まできたところで、二郎くんが私の袖を後ろからきゅっと引いた。

「ん、」
「……きょう、その、」
「私は今日お仕事おやすみだから。朝ごはん食べよっか」
「………いいのかよ」
「二郎くんがいいなら」

 会話をしてから、エレベーターのボタンを押すまで、ずっと。二郎くんは難しい顔を崩さない。

「あいたい、かった、んだ」

 鍵を開ける音と、彼の声が重なる。思わず鍵を落としそうになるところを、彼が後ろから支えてくれた。

「……はやく理由がなくても、会えるようになりたい」
「うん。ありがとう」
「おー……」

 一緒に鍵を開けて、重い足取りで玄関を跨ぐ。私もって言えないのは、私が大人だからで、彼が子供だからで。

「パンにしよっか」

 君を断りきれない私は弱くて、何年後かの未来に期待してしまって。

「挟んで焼くやつがいい」

 好きだよとか、ずっと待っているよとか。そういう言葉を言えない代わりに、こういう言葉ばかりを並べて、交わして、心のどこかで、互いが互いをわかっていると信じ込んで。

「ハムとチーズにしよっか」

 十七歳のきみの輝かしい現在を奪ってしまうことを、彼と痛み分けしてしまっているのが、私の悪いところ。

「卵もいれたい」
「いいよ」
「ん」
「終わったら勉強見るからね」
「はぁ!?」
「サボってるんだから当たり前だよ」
「サボりって言わねえじゃん!」

 ああ、どうしようもなくきみが眩しい。

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