四日目

兎に角エレンは私に触りたがった。隙があれば何時でも、ぎゅっと抱き締められたり抱き寄せられたり。まるで自分の腕の中に閉じ込めておきたいみたいに。今回の件も、多分その例に漏れないのだろう。

「…」

ベッドの上で何故か私はエレンの膝の上に乗っていて、後ろから抱き締められていた。背中に重なるエレンの胸板が暖かい、腰に回されたエレンの腕が重い。それはさながら私を逃がさない拘束具のようで、身動き一つ取れないのだ。
でも、不思議と嫌な気分じゃなかった。相手がエレンだからだろうか。何より、こうやって抱きしめられるのは安心するのだ。温もりに包まれるのは気持ちが良くて、それがエレンだったら尚更。そしてそれを受け入れるように腰に回された手に私の手を重ねると、甘えるようにエレンが私の旋毛に顎を置く。少しくすぐったいが、振り解こうとは思わなかった。

「なあリル、なんかしたい事あるか?」
「したい事…」

ついちらっと光の差し込む窓へと視線をやる。外はきっと、開放感があって、風も吹いていて、気持ち良いのだろう。だけど、今外に出たいとは思わなかった。

「…無い、かな」

元々此処に縛り付けられている事で、やれる事なんて無いに等しい。それが数日続いた今は、特にやりたい事というのは見つからなかった。今の状況に慣れてしまったのだろうか。

「…そっか」
「うん」

下を向いて、重なった私の手とエレンの手を見る。その大きさの違いにどうしてもお風呂での事を思い出してしまった。やっぱり、大きいな。男らしくて、頼もしそうな、エレンの手。その指先に私の指を滑らせ、指間に折り入れる。ぎゅっと握り繋がった手から伝わる温もりに、ほう、と胸が暖かくなった。

「リルの手はちっせえな」
「…エレンの手が大きいの」
「そうか?普通だと思うけど…」

男の人の普通がどのくらいか分からないから、エレンの言う事が本当かは分からない。でも、エレンが言うのなら、そうなんだろうか。

「ほんと、ちっせえし…細い。大事にしてないと折れそうだな」
「そんな簡単に折れないよ」

というかそんな怖い事をさらっと言わないで欲しい。

「…まあ、そうだな」

そう言ってエレンは私の腰に回した腕に力を入れる。大事にしてるとでも言いたげに。
それからはお昼までそんな感じで、昼食を食べ終わるとまたぎゅっと抱き締められて。今日は夜までそんな感じで時間が過ぎていった。
そして夜になると、温もりを求めるように唇を重ねられた。最初は私の反応を確かめるかのように、触れるだけのキスを。私が嫌がっていない事が分かると、再び唇を重ねられて下唇を挟むように押し付けられる。その感触に自然と少し唇が開いて、そこから遠慮なしに舌がねじ込まれた。

「…ん」

それを受け入れるように自ら舌を絡ませると、エレンは悩ましげな声を漏らして私の頬を包むように頭を掴む。逃がさないとでも言うように強い力で固定して、口内をエレンの舌が這う。指先で擽るようにもみあげの間に指を通らせて、頬の肉を揉むように動くエレンの指の先が、暖かい。

「ふ、ぁ、んん…っ」

歯列をなぞり奥へと舌を差し入れられ、上顎を舌先でちろちろと刺激されれば背筋がぞくぞくとした。嚥下出来なかった唾液が唇の端から零れて、肌の上を線を描くように顎まで伝い落ちていく。エレンは一旦唇を離して、それを拭うように舐めとった。そのざらりとした感覚が皮膚の上を這う感触にも、背筋が粟立つ。

「ん、」

頬を包んでいた手がするりと滑り落ちて、首筋の皮膚を撫でる。シャツの襟を捲るように項の方へと指先が行き、肌と服の間に空気を入れるみたいにぴんと服を引っ張られた。そしてそこの肌を指先でつつかれる。

「…こういうの、結構早く消えるもんだな」

昨日つけたであろうキスマークを指しているのだろう、エレンはそこに指の腹を押し付けて、離す。勿論そのくらいの力じゃ一瞬赤くなってすぐ肌色に戻るだけ。ぷちんと胸元の釦を二つ外されて、首筋をなぞるように舌が這いそこに強く吸いつかれた。

「…っ、ん、」

唾液の感触がぬる、としてその中心が熱い。ちゅう、と強めに吸われれば微かな痛みを感じて、口からその痛みを無くすみたいに息を吐いた。一旦唇が離されると少しの間静寂が流れて、再び吸いつかれる。今度ははっきりとした痛みと固いものが肌に食い込む感覚がして、歯を立てられたのだと悟った。

「…こうすれば、もっと長く残るよな」

まるで食らいつくようにキスをされて、その痛みとじわりと広がる熱にどうしたら良いか、エレンに少し加減してと伝えるべきかどうか迷う。別に耐えられない痛みでは無いが、ただ、何となく。何となく抵抗すべきかと考えるが、エレンの満足そうな顔を見るとそんな事は言えなかった。
ぐ、とエレンの服を掴んで、もう寝ようと問い掛ける。エレンはそんな私の願いを受け入れてベッドに横たわり、毛布を被り手を握られるがそれだけじゃ落ち着かないようで。ぐいとエレンが私の体を引っ張って額が胸板に付く。エレンの腕の中にすっぽりと収まると、エレンが安心したかのように息を吐いてこう言った。

「…リル、おやすみ」
「…おやすみ、なさい」

まるでエレンに覆われるみたいに抱き締められて、身動きがあまり取れない。微かに聞こえる心臓の音や服を隔てて伝わる温もりにどんどん眠気が訪れてくる。
何時もこうだ。エレンは私を抱きしめてじゃないと寝られない。私を出来るだけ拘束していないと安心出来ないのだろうか。私の力でこの拘束具が外せる訳無いし、手錠の鍵も遥か遠くでエレンじゃないと取りに行けないのに。どうして私を抱きしめていないと安心出来ないのか。その考えに答えが出る事は無く、瞼を閉じた。

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