学園祭の準備の話

周りからは各々楽しそうに話す声や、ペンを紙に滑らせる音が聞こえる。
またある者は折り紙を縦に切って輪っかを作ったり、教室内の飾りを着々と作っていった。
そう、あと数日で学園祭なのだ。
こんな風に盛り上がるのなんてこういう時ぐらいだろう。
隣の教室からも楽しそうな声が聞こえて、自然とこっちまで楽しくなってくる。

「リル、手が止まってる」
「…あ、ごめん」

いかんいかん、今はミカサと一緒にお店のポスターを書いてるところだった。
カラフルなペンを使ってなるべく可愛くしてやろうとペンを画用紙に乗せると、頭の上からひらひらと何かが降ってくる。
紙屑みたい、というか色付きの紙屑、と其処まで考えて、降ってきたのは綺麗に切られた折り紙だという事が分かった。

「…なにこれ」
「ミカサ!リル!これ綺麗じゃないですか?面白くないですか!?」

切り刻まれた折り紙を降らしたのはサシャだった。
何時もよりも幾分高いテンションで更に折り紙を降らして、更に机の上が折り紙で埋め尽くされる。
ミカサは何事も無かったかのように机の上を払い折り紙を床に落として、続きを描き始めた。
だけどミカサ、貴女は頭の上から降ってきたという事を忘れてはいないか。

「…ミカサ?頭の上にまだ乗ってる…」
「え…あ」

ミカサは頭の上を触って、指の先に触れた折り紙を取り床に落とす。
そしてまたポスターを描き始めて、私もぱっぱと頭の上に乗っている折り紙を落としてサシャに向き直る。

「サシャこれどうするの?」

そう言って指差したのは床に散らばった色とりどりの折り紙。
確かサシャはクリスタ達と一緒に輪っかを作っていた筈だが、何がどうしてこんな細切れになったんだ。
何かに使おうとしてこうしたのなら良いけど。

「ええとですね!お客さんが扉開いた瞬間頭の上から降らせて差し上げようかと!」
「何その扉に黒板消し挟むみたいなの」
「歓迎の意味を込めてですよ!ですからあいた!」
「痛!」

サシャに何かがぶつかって来たかと思った瞬間、その何かがバウンドして私の額に当たる。
タン、タン、とひとしきり跳ねて教室内を転がっていった何か。
それはボールだった。
何で今ボールがあるんだ、と、それよりもこれを投げたのは誰だ。
まあ、大体想像はついているが。

「やり!命中したぜ!」

まるで子供の悪戯が成功したかのように、嬉しそうにガッツポーズをするコニー。
ゴム製のバレーボールだったからあまり痛くは無かったけど、あれ擦れると結構痛いんだぞ。

「いきなり何するんですかコニー!」
「お前が隙見せてるのが悪い」

勿論当てられたサシャは怒るが、コニーの返答は隙を見せるのが悪い、という一言。
そもそも何時戦いが始まっていたのだろう。
というか。

「私にも流れ弾当たったんだけど」
「…まじで?」
「まじで」
「一気に二人倒したって事か!」
「どうしてそうなるの。…ま、良いや。出来ればもうちょっと大人しくして頂けると…助かる!」

その辺に転がったままのボールを掴んで、私が出せる限りの力でコニーに向けて投げつける。
さっきのお返しだ。
少しでも痛がってくれたら良いなと、そう思って遠慮なんて無しにコニーに向けて。
…だった筈なのだが、椅子に座ったままの所為か思ったようにボールの軌道をコントロール出来なくて、そこら辺に居た人に当たりながらコニーの足元へと弱々しく転がっていった。

「おい!今俺に当てたの誰だよ!」
「僕にも当たったんだけど…」
「あ、あぶっ…ね…っ」

何か、さっきコニーが投げたボールよりも犠牲者を増やしたような気がする。
エレンにアルミンに、何故か酷く息を荒げたジャン。
その三人にボールが当たったようで、皆ボールが来たであろう方向に顔を向けた。
つまりは私の方を向いたと言う事で、酷い罪悪感に駆られながらもその表情に名乗り出る事が出来なかったが、コニーにあっさりと私の名を言われて色々終わったと思った。

「おま…っ、下手したら変な形になってたぞ!」

そう言うジャンの手元には鋏と折り紙が握られていた。
成る程、輪っか用の折り紙を今まさに切っていたのか。

「…ごめん。でも事の発端はコニーなので私の代わりにコニーにボール当ててくれませんか」
「ああ?」

ジャンは明らかに苛ついている様子で、後ろに居るコニーと転がっているボールを見る。

「…これどっから持ってきたんだよ」
「企業秘密だ!」
「…遊んでないでお前もなんかしろ!」

ジャンは徐にボールを掴むと、床にバウンドさせてコニーの顔面へと命中させた。
綺麗に入ったなあ、流石ジャン。

「いて!」

だけどそのボールは更に跳ねてエレンの頭へと命中した。
二回目だ、ごめんエレン許して。

「おいジャン!お前今のわざとだろ!」
「わざとじゃねーよ!」

ああいかん、なんか段々収拾つかなくなってる。
ボール一つで此処まで荒れるとは恐ろしい。
エレンがお返しだと言わんばかりにジャンにボールを投げつけて、跳ね返ってきたボールがエレンに直撃したのは申し訳ないと思いながらも笑った。
其処から何故かボールの投げ合いに発展して、こそこそとクリスタ達が私とミカサの机の影へとやって来た。

「ごめんリル、ちょっと避難させてくれる…?」
「うん良いよー。ていうか私の所為かなこの惨状…」

さっき我を抑えて投げ返さなければ良かったかな、と今更ながら後悔した。
男子はエレンとジャンを筆頭に、野次馬達とそれを止めようとする人達で一杯だ。
こりゃ男子の方は準備進まないな、と苦笑する。

「まあ、まだあと数日あるんだし大丈夫じゃない?」
「うん…。準備が間に合わないって事は無いだろうけど…」

アニは相変わらず落ち着いていて、ただ黙々と輪っかを作っていた。
アニの功績が大きいのか、もうかなりの量を終わらせている。
ミーナも真面目に取り組んでいて、ユミルはクリスタにちょっかいを出しながらも自分のペースでちょこちょこと作り上げていった。
私もポスターを頑張らねばと画用紙の上にペンを滑らせて、余白部分に絵を描いて賑やかな感じにするが何となく物足りない。

「クリスター。何か描いてくれる?」

こういうのは多分クリスタが得意だろうと思い、声を掛ける。
可愛い感じのイラストを描くのが上手そうだし、困った時のクリスタ頼みという感じだ。

「うん!良いよ」

クリスタにペンを渡すと、さらさらと流石と言えるような手の動きを見せる。
物足りなかったポスターに華が生まれて、やっと完成したと言える代物が出来た。

「こんな感じで良いかな?リル」
「うん!ありがとークリスタ!」

これで一枚目は完成だ。
あと何枚か学校の掲示板に貼る分と、客寄せの時に使う分を描かなければ。
そう思って出来た分を安全な場所に置いて、まだまっさらな画用紙を机の上に置く。

「よしミカサ!二枚目頑張ろう!」
「うん。…でも、あと少しで今日の準備の時間が終わる」
「え?あーほんとだ…」

ちらりと時計を見ると、あと少しで今日の時間は終わり。
もう片付けに入った方が良いかと思ってはっとする。
男子は未だボールを使っていて、あちらこちらに飛んでいっている。
今日の準備の時間が終わるまでこの惨状のままだとすると、嫌な予感しかしない。
もうそろそろ先生が戻ってくるからだ。
内心はらはらしながらエレンとジャンを見詰めるが、勿論そんな視線に気付く筈もなくボールは教室内を飛び交うばかり。
そんな時に限って嫌な予感というものは当たるもので、ガラッと教室の扉が開かれた。

「おいお前ら。もう少し静かに…っ」

そして更に私の予想の斜め上を行く出来事が起こった。
手元か足元かどっちかは解らないが狂ったのか、姿を現したリヴァイ先生に向かってボールが放たれる。
ボールの行く先を皆が確認すると、さっきまでの賑やかさはどこへやら。
一気に静かになって、ボールがリヴァイ先生に当たるか当たらないかの所で、その先を見るのが怖くなってぎゅっと目を瞑る。
ぱん、と酷い音がして、さらに床にボールが叩きつけられた音が聞こえた。
恐る恐る目を開けてみると腕を振り下ろしたようなリヴァイ先生が居て、当たる前にボールを叩き落としたのだと理解すると強張った体から力が抜ける。
リヴァイ先生には当たらなかったと言うだけで、何故かほっと胸を撫で下ろした。

「…おいお前ら、何なんだこの惨状は…」

だけどそんな安心感もリヴァイ先生のドスの利いた声に、一気に消え去った。
リヴァイ先生が教室内から姿を消す前とは明らかに雰囲気が違うこの状況。
女子は一カ所に固まって、男子は男子であまり進んでいない作業と険しい顔をして向かいあっているエレンとジャンの存在。
それに加え男子はその周りを取り囲むように集まっているものだから、何があったか容易に察しがつく事だろう。
そしてリヴァイ先生へと向かっていった一つのボール。
これは、もう嫌な予感というか、それ以前の問題だ。
一気に静まり返った教室内に、リヴァイ先生の声だけが無情に響いた。

「…どうやら俺が見ていないと駄目らしいな」

自由に喋って面白おかしく過ごしていた時間に終止符が打たれた。
それからの学園祭の準備の時間帯はずっとリヴァイ先生が目を光らせていたのは言うまでもない。

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