食む

かぷ、と私の首にエレンの歯が当たる。
最初は…そうだ。
手を掴まれて、じっと見られて、私はそんなエレンを所在なげに見ていると指をぺろりと舐められて。
指の先をそのまま噛まれた。
吃驚して手を引っ込めようとしても私を掴むエレンの力は強くて、ふりほどけなかった。

「…リルの指、柔らかいな」
「へ…、え?」

えと、柔らかさを確かめる為の行為だったのか。
良く解らないが、エレンが喋った事で私の指は解放されて、少し安心した。
というか意味の解らない行為に吃驚しただけで、それ程痛いものでは無かったし、振り解こうなんてちょっと悪い事しちゃったかな。
なんて考えていると、ずい、とエレンの顔が近づいてきて、肩から首にかけてを撫でられた。
髪がさらりと背中に流れて、エレンの指の腹が首筋を触る。
ふにふにと揉むように触られて、ちょっと痛い。

「…エ、レン?」
「此処も、…噛みたい」
「え、え…!?」
「…駄目か?」
「え、うーん…」

そんな、子犬みたいな瞳で言われたら、きっぱり断れないじゃないか。
さっき指を噛まれた時は思った程痛いものでも無かったし、どうしたものか。
そう思案していると、エレンの腕が私の背中に回り、背中側から首筋を撫でられた。
ぞわ、とした感覚が湧き上がり、エレンの指が動く度に体がぴくんと震える。

「…っ、ん、ちょ…っと」
「さっき、そんなに痛くなかっただろ?」

だから、良いよな、なんて問いではない確定事項を確認するかのように言われて、ゆっくりとエレンの顔が近づいてくる。
ぐい、と顎を掴まれ肩を抑えられて、親指でジャケットの襟を避けられ露わになった首から肩にかけての部分にエレンの唇が触れた。
エレンの舌が皮膚の上を這って、歯が当たる。
こり、とした歯が肉を挟んで骨と当たる感触が伝わってきて、それと同時にエレンの熱を孕んだ吐息が首筋に当たって、少なからず興奮しているのだと云う事が手に取るように解った。

「…エレン、噛むの、好きなの…?」
「…なんか、…ん、好き、だ…」
「…っ、は…ぁ」

歯を少し強く当てるぐらいの柔らかい痛みと熱に、頭がぼうっとする。
まるでエレンに噛まれた部分だけが熱を持ったみたいに、そこ以外に意識を持っていけない。
するりと肩を抑えていたエレンの手が肩を撫で、私の手と重ねて指を絡ませる。
何時も手を繋いだりしている筈なのに、今は何故か互いの肌が触れ合うだけで全身に気持ちよさが広がっていく。

「ん…っ」
「…リルは、噛まれるの好きなんじゃないか…?」

私から唇を離すと、エレンは私の顎を掴んでいた手で無理矢理顔を合わせ、視線を交差させる。
翠緑の瞳が、私を捉える。
相変わらず透き通ったような澄んだ緑色の瞳が綺麗だ。
頬は僅かに上気していて、潤んだ瞳が今行っている行為と相俟って、どこかいやらしい。
そうこう考えていると、顎を掴んでいた親指が私の唇に触れ、口をこじ開けて口内へと侵入して来た。

「ふぁ…ん、ん…っ」

口の中をエレンの指が弄くり回し、唾液に濡れた指が唇の上をぬるりと滑って、離れる。
かと思ったら今度は人差し指と中指を口の中に突っ込まれ、私の上と下の歯を抑えるように口を開かれ、少しえずいてしまった。

「ぅ…っ、は、う…っ」
「…リルも、噛んでみるか?」
「ん…?は…ぁ…っ」
「かるーく、甘噛み程度な」
「は、ん…ぅ…」

エレンは私の口を開くのを止めると、くい、と上顎の方の粘膜を指先で擦る。
少しくすぐったいような変な感じがして、つい口を閉じようとしてしまった。
勿論それはエレンの指に阻まれて出来なかったが。

「…どうだ?」

意図せずエレンの指を軽く噛む事になってしまった私は、その指を噛んだ感触に吃驚して、直ぐにエレンの指を私の口内から抜いた。

「…ご、ごめ…っ」
「俺からしたんだ。別に謝る事じゃないだろ」
「でも…」

私の唾液にまみれた指をエレンは自身の舌で拭い、ぐい、と背中に腕を回され抱きしめられる。

「…あんまり良くなかったか?ごめんな、無理矢理させて」
「…別に、いきなりで吃驚しただけだよ…?」
「そっか…」

抱き締められて、服を挟んで伝わる温もりに安心する。
甘えるようにその胸にすり寄ると、エレンもそんな私を甘やかすように頭を撫でてくれた。
その撫でてくれた手が、私の首の辺りで止まって、静寂が流れる。
何かあるのかとエレンを見上げると、非常に真面目な面持ちで此方を見下ろしていた。

「…なあ、真剣に返して欲しいんだけど…」
「うん…?」
「やっぱ、…変だと、思うか?こういう、噛んだり、とか」

エレンはそう言って先程噛んだ私の首辺りを撫でる。

「…吃驚はしたけど、そんなに痛くないし、エレンにされるなら別に…」
「!そっか…」

ぎゅっと、抱き締められている腕に更に力が入る。
エレンは安心したかのように表情が緩んで一気に笑顔になり、まるで人懐っこい犬みたいだ。

「じゃあ、これからもして良いんだよな?」
「先に言ってくれたら…ね。あと、あんまり痛くしないでくれたら」
「ああ!」

嬉しそうに私をぎゅっと抱きしめるエレンの唇は既に私の首もとに来ていて、今度は少し歯形が残るんじゃないのというくらいの力で噛まれた。
ちょっとだけ、噛まれるのも気持ちいいかも、と思ったのは言わないでおこう。
いつヒートアップするのか解らない首元の痛みにそう誓った。

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