エレン

チャンネルを変えると、何処も年末年始の特番ばかり。
毎年の事で目新しさも無く、特に今のような1人暮らしの状態だと、あまり面白くない。
ちらり、とテーブルの上に置いたスマホを見て、手に取る。
どうしよう、エレンは毎年年越しの時は起きていると言っていたから起きている筈だ。
掛けても大丈夫かな、迷惑がられないかな、と少しどきどきしながらスマホの電源を入れ、エレンに電話を掛ける。
少しだけ、少しの間だけ掛けて、エレンが取らなかったら諦めようと思った。

『…リル?』

いきなりだったから取れないかと思っていたのに、エレンは私が掛けてすぐに取ってくれた。

「…エレン!あの…今、大丈夫?」
『あー平気平気。寧ろ1人で暇してたとこ』
「1人?エレンのお母さんとお父さんは?」
『母さんも父さんももう寝ちゃったよ。俺今1人寂しくテレビ見てる』
「あははっ、私も!」

良かった、エレンの声からは迷惑がられているとか、そう言った宜しくない空気は伝わって来ない。
まだ電話続けても良いかな、と先に断りを入れる。

「ね、まだ電話続けて大丈夫?エレンが都合悪いなら、切るけど」
『大丈夫。1人で暇してたとこだし、とことん付き合うよ』
「…ありがとエレン!」

エレンは気づいていたのだろうか、私が1人で寂しがっていた事。
とことん付き合う、の一言に少しじん、と来た。
エレンは優しい、その優しさに甘えてばっかりはいられないが、こんな時ぐらい甘えても良いよね、とじわりと温かさが広がる胸元をぎゅっと握った。

「ねーエレン。今何見てる?」
『えーと、3番のやつ』
「3番か。私5番のやつ見てる」

エレンが見ているのは3番だと言う。
今私がつけているのは只単に適当につけていたやつで、エレンには見てると言ったが実際見てはいない。
それでも見てると言った手前テレビに視線を向けるが、やはり面白いとは思えなかった。
そもそもこのような番組は多数の人間で見るものであって、1人で見たって寂しいし騒いだりしたら虚しいしで、今の私にはとことん合わない。
少しでもそんな気持ちを払拭しようと番組をエレンと同じ3番に変え、飲み物を持ってこようとキッチンに向かった。

『にしてもあと少しで年明けるな』
「あー、そう、だね」

インスタントのカフェオレをマグカップに入れて、ポットからお湯を注ぐ。
ちらりと時計を見ると、あと5分程度で大晦日は終わる頃だった。
あともう少しだけ、もう少しエレンとこうやって電話して、元旦になったら一番にあけましておめでとうって言いたい。
そう考えるとそわそわして、早く年が開けないかと思ってしまう。
お湯を注いだマグカップの中身をスプーンでかき混ぜ、リビングに戻ってテーブルの上に置きクッションの上に座った。

「エレンは初詣どうする?」
『何も決めてねえや。リルは?』
「私はこのままだと1人で寂しく初詣です」
『まじか。いってらっしゃい』
「酷いエレン」
『冗談だよ。だったら俺と行くか?』
「…良いの?」

日付が変わった瞬間にハッピーニューイヤーとかあけおめとか言えたら嬉しいな、なんて思ってたのに、思いがけない幸運。
棚ぼたありがとう神様。

『ああ。何時くらいなら大丈夫だ?』
「何時でも!何時でも大丈夫だよ」
『ま、それは一回寝て起きた時にでも電話するって事で』
「うん!」

どうしよう、凄く嬉しい。
まさかエレンと一緒に初詣に行けるなんて。
はやる鼓動を抑えるように胸に手を当て、取り敢えず落ち着こう、とゆっくり深呼吸をする。
かちり、と秒針が進む音が聞こえて、時計に視線を向けた。
あと数秒で今日が終わる。
4、3、2、1。

「…っえれ」
『ハッピーニューイヤー、リル』
「え、あっ、あ、ハッピー、ニューイヤー…エレン」

先に言われてしまった。
折角頭の中でカウントダウンをして、先に言ってやろうと思ったのに。

『…何だよ。もしかしてリルも日付が切り替わった瞬間言おうと思ってたのか?』
「うん…。先、越されたけど」
『そっか、同じ事考えてたのか』
「…みたいだね」

エレンと同じ事を考えて実行しようとしていた、その事が嬉しくて、どこか可笑しくて。
口からは控えめな笑い声が漏れていた。

『…じゃ、また起きたら電話すっから』
「うん、また後でね、エレン」
『ああ、おやすみリル』
「…おやすみ」

そう言ってエレンが先に電話を切ったのを確認して、私も切った。
スマホの電源を切って、テーブルの上に置く。
朝起きたら、エレンと一緒に初詣に行ける。
どうしよう、何着ていこうかな、と今からわくわくしてきた。
ふと、テーブルの上に置いていたカフェオレが視界に入る。
淹れていたカフェオレを一口、口に含むと幸せな温かさと甘さが広がった。

[ 1/80 ]

[*prev] [next#]
[トップ]
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -