05-恋心
恋する心

今は届かなくとも――




今日は美雲と現世でデートの日。
ガキみたいだが、昨日の夜はワクワクしてなかなか寝付けなかった。
何処へ連れて行こうか、とか何処か行きたいところあるだろうか、とか
とにかく色々考えちまって妙にそわそわする。

今までだって女とデートくらいした事はある。
行きたいと言った所へ連れて行ってやったり、何か食べにいったり
でも今のような気持ちにはならなかった。

というか、今まで女に困った事はないし
女の方からすり寄ってくるのが多かった。
その女達の中で好みの娘をデートに誘うのは、自分にとって礼儀みたいなもんだった。
だから相手の気持ちに立って必要以上に考えないし
必要以上に好かれようともしない。

だから今の俺の状態に自分自身でも改めて驚いている。
と同時に、美雲への想いが自分の中で如何に大きな物かが分かる。

美雲に近づきたい
側にいて欲しい
俺だけを見て欲しい
その躯を抱きしめたい

でもこの気持ちを押しつけて壊したくない
真っ白な君を汚してしまう事への恐怖

そんな矛盾した気持ち。
俺もこの前初めて知ったどうしようもない恋心。

確かに阿近さんの言うように、辛いでもある。
でも美雲も同じように俺を想ってくれたら、と思うと
やぱり嬉しくて愛おしい。

だからどんなに時間がかかっても、俺が教えてやりたい。
人を愛する喜びを――




「おはようございます」

技局、メンテナンスルーム
俺の義骸の傍らに立ち美雲はにっこりと笑い出迎えてくれた。

白いワンピースに薄手のカーディガンを羽織った姿に心臓が高鳴る。
この薄暗い部屋でも輝いて見えるくらいだ。

でもこの服、まさか阿近さんが用意したもんじゃないような。

「服、阿近さんが用意してくれたのか?」
「修兵さんと現世に行くって乱菊さんに言ったら、貸して下さいました。…あの、可笑しいですか?」

乱菊さん、ナイス!
俺は心の中で盛大にガッツポーズをした。

まじまじと見つめ、彼女から目が離せない俺に、美雲が首をかしげながら不安そうな表情を見せる。
そんな仕草も可愛くて、思いっきり顔が緩む。

「すげぇ似合ってる…思わず見とれちまった」

そう言って頭を撫でてやると、ほっとした表情になり少し照れくさそうに微笑んだ。

「おい、仕事の邪魔すんな。行くならさっさと行け」

奥の方からかなり機嫌の悪い声が聞こえた。
声の主は当然、美雲の親――阿近さん

俺たちは顔を見合わせ、ふふっと笑った。
美雲に義骸を起こして貰い、中へ入る。
窮屈ではあるが、これからデートだと思えばどうってことはない。

「阿近さん、行ってきます」

美雲は奥にいる阿近さんに向かい声をかけた。
その声に何か思い出したのか、阿近さんがちょっと待てと姿を現した。

「これ持っとけ」
「伝令神機ですか?」
「お前にまだ渡して無かったからな。何かあったら連絡しろ」
「はい!行ってきます」

美雲は阿近さんから手渡された伝令神機を大事そうに持ち、満面の笑みで阿近さんに笑いかける。
俺の思う感情ではないにしろ、二人の関係に嫉妬する自分がいる。
俺はそれを振り払うかのように、彼女の手を引いた。

「日が出てる内に帰って来いよ」

それは俺に向かって言った科白。
"はーい"と返事をする美雲の手を引き技局を後にした。
阿近さんがまた睨んでたけどやっぱり気にしない。

俺は決めたんだ。
彼女がどんなに俺の本当の気持ちを理解出来なくとも側にいるって

いつかきっと彼女の一番になるって


今は届かなくていい

きっといつか届く


届かせてみせる――




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デート前のワンクッション(またかよ!)
ちょっと修兵の心理描写を書きたかったのです
次こそはデート。ちょっと重要な話になる、かなー←

美雲様、ここまで読んで下さり有難うございます!


2012.11.03 みくも






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