ある日の事、定時の鐘が鳴り美雲を迎えに行こうと隊首室を出たところで
技局の鬼に呼び出しをくらった。
久々に非番が同じ日に取れた俺達
今夜は俺の部屋に泊まってまったり、明日は美雲が行きたいとこがあるとかで出かける予定だ。
内容も素っ気なく『一番に俺の研究室に来い』という
極々短く、どんな用事かも聞かされていない。
こういう場合、美雲と共謀して何か変な実験に付き合わされるか
若しくは俺の部下が提出した書類に何かしらの不備があり機嫌が悪いか
どちらかのパターンが多い。
今日はわざわざ『美雲に逢う前に』と付け足されていたので、美雲と共謀して何か実験台にされるという事はなさそうだ。
となると、考えられる可能性は1つ。
部下のミスは上司である俺のミスでもある。
その後、二人の甘い時間を過ごせるならどんなお叱りだって堪えてみせるさ。
「阿近さーん?檜佐木です」
「おう。入れ」
中から聞こえたの声は意外にも普通
機嫌が悪い時はドアの外までピリピリしているが、今日はそれも感じない
俺はそう思いつつ、研究室のドアを開いた。
「なんすか?用事って」
「あぁ、これやる」
そう言ってぽいっと投げられた小さな包みを受け取る。
それは投げた本人とは似つかわしくない、可愛くてポップなフィルムでくるまれたものだった。
「なんすかこれ…?」
「飴玉だ」
「いや、見れば分かるんすけど…なんで俺に?」
そう聞くと阿近さんははぁ…と溜め息を吐きながら口を開いた。
「それ渡してあの馬鹿さっさと黙らせろ」
そう言ったと同時に研究室のドアがばんっと音を立て開いた。
「阿近さーん!定時になりましたよー!とりっく おわ とりーと!!」
片手に沢山のお菓子が入った容器を抱え、いつになっくテンションが高く満面の笑顔の美雲が怪しい発音で言い放った。
それを見た阿近さんは来たと言うように美雲から顔を背けた。
「あ、修兵も。とりっく おわ とりーと」
「あぁ、ハロウィンか。つか俺はついでかよ!?」
恋人の俺より阿近さんの菓子を優先するのが面白くない。
俺の抗議を聞いて美雲は少し困った顔をした。
「だって阿近さんは定時にならないとお菓子くれないって言うから、定時になって一番に来たの。そしたら修兵もいたから、ごめんね」
「ったく…俺の部屋で騒ぐな。甘ったるい匂いさせてねぇでさっさと帰れ。お前が欲しいもんはこいつに渡してある」
それを聞いた途端、美雲は途端に笑顔になった。
阿近さんは手をヒラヒラさせて俺達を追い払うように退出させた。
「修兵、まだ怒ってる?」
技局を後にした二人の間を暫く沈黙が流れる。
美雲が俺の顔色を窺うように恐る恐る話しかけてきた。
「怒ってないって言ったら?」
「もー。質問を質問で返さないで」
「美雲、俺より阿近さんの菓子だもんなー」
「う…っだって」
途端に口ごもり、俯く美雲。
少し涙目で少し頬を膨らまして
こんな表情するからもっといじめたくなる。
俺は美雲が抱える沢山の菓子が入った容器をその腕から奪った。
「あぁ!」
「全部俺が食べちゃおっかなー?」
「えぇ!?」
驚きの表情となんとも言えない困り顔で俺を見上げる美雲。
いつもなら返せと俺にしがみついてくるも、今日はその罪悪感からかどうしたらいいのか分からないと言うように
ただ俺を見るその瞳がゆらゆらと揺れている。
「返してほしい?」
「うん…」
申し訳なさそうに俯くその長い睫毛が少し濡れている。
「なら美雲、今日は何の日だっけ?」
「え?ハロウィン?」
「んじゃTrick or Treat?」
「えぇ!?」
まさか自分が言われるとは思わなかったその科白に、あわあわと美雲が焦り白衣のポケットや懐を弄って菓子類を探す。
そんな美雲の腰に手をかけ身体を密着させた。
「イタズラされても文句言えねぇな」
「ずる…んんっ!」
美雲が抗議を上げるより早くその唇を奪う。
「ずるくないだろ。最初からお前以外いらねぇよ」
美雲はそれを聞き耳まで紅く染め、俯き俺にしがみついて頷いた。
「ほら、掴まれ。もう立つのも辛いだろ?」
「もう、…莫迦っ」
そう言って静かに俺に身を預けた。
俺にとって一番甘い
君より甘いものを俺は知らない
甘い甘い君が好き
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アトガキ
10月も中旬と言う事でハロウィン夢
本当はいかがわしい内容の筈でしたが、一応ちょっと切り離し
続編として裏書く…かも(笑)
美雲様、ここまで読んで下さり有難うございました!
2012.10.13 みくも