01




 俺……前川隆は昨晩、人間を拾った。アパートの前でぶっ倒れてるそいつは、まだほんのガキだった。


「ねぇ、焦げ臭いよ?」

「……げ」


 俺の手元には見事に焦げて黒くなった卵焼きだった物体。まぁ、何層かめくれば食えるだろう。
 それより、このガキ。外で倒れてたからどっか悪いんじゃねぇかと心配してやったのに、朝になったらケロッとした顔で起きやがって……。

 俺は、焦げてしまった部分を取り除いて一回り小さくなった卵焼きや、味噌汁、ごはんをテーブルに並べた。すぐにその前へとやってきたガキがしばらくそれらを眺めて言う。


「料理しないんだね」

「うっせー、黙って食え。食ったら出て行け」


 確かに俺は普段から料理などしない。たまたまあったインスタントの味噌汁と、温めるだけのごはんと、それだけじゃ寂しいからと作った卵焼き。
 俺にしてみれば、頑張った方である。


「出て行かなきゃだめ?」

「あたりめーだろ。住む気か、こんな狭い部屋に」


 俺の部屋は8畳の1K。ベッドと冬場はこたつとして使っているテーブルだけでも部屋の大半を埋められてしまう部屋。
 一人暮らしには十分と言えるが、男2人でなど到底住めない。いや、住みたくない。


「俺が料理するからここに置いてよ」


 『俺が料理する』
 もう何年もまともな家庭料理など食べていない俺には魅力的な言葉である。だけど、そんなことで俺は認めない。


「ダメだ。大体お前まだ高校生くらいじゃねぇのか。学校は?」

「行ってない」

「あん?」


 俺が不思議そうな顔をすると、そいつは話を逸らした。


「ねぇ、おじさんの名前は?」

「誰がおじさんだコラ! まだ28歳になったばっかのお兄さんに向かって」

「28歳なんか、おっさんじゃん」

「今すぐ出てくか?」

「嘘っ! うそうそ! 若いよ! で、名前は?」


 こんなにかっこいい俺を捕まえて、おっさん。そろそろ加齢臭対策でもした方がいいのだろうか。


「調子いーな、お前。隆だよ。前川隆。お前は?」

「サトシ」

「年は?」

「……16」


 まるで若いことが嫌みたいな言い方。確かに俺もそんくらいの時は大人を羨んだりもしていたが、今じゃああの頃の汗くさい自分もよかったと思う。


「ふーん。本気で出て行きたくねぇのか?」

「うん」

「じゃあ好きなだけいろよ。その代わり朝晩ちゃんとメシ作れよ?」

「いいの!?」

「マズかったら追い出す」

「ありがと! 隆さん!」


 ……笑うと可愛い顔してんじゃねーか。
 でかいスポーツバッグ1個だけ持ち歩いてたってことは家出かなんかだろう。まぁ、しばらくしたら自分から出てくと思うし。つーか、あんな寂しそうな顔されたんじゃ、追い出したくても追い出せねぇしよ。
 なんて優しいんだ、俺という奴は。


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