11




「じゃあ、俺、帰るわ」

「あ、うん」


 俺は鞄を手に取り、椅子から立ち上がった。


「あのさ、隆さん。明日からもう来ないで?」

「明日?」

「うん。明日。だから、最後に……隆さんのこと抱きしめさせて」

「さ……。……おぅ」


 『最後とか言うなよ』
 という言葉を飲み込んだ。なぜか、言ってはいけない気がした。
 もう一度鞄を置き、椅子に座って、ベッドに座るサトシの胸に身体を預けた。


「隆さん、キス……していいかな?」


 ドクンっと心臓が鳴る。年甲斐もなく緊張してしまう俺。しかも相手は一回りも年下のガキ。


「聞くなよ」


 身体を離され、頬と耳にそっと手が添えられた。サトシの顔を見る。妙に大人びた表情にまた心臓が鳴る。
 少しだけ頭を右に倒し、少しだけ顔を近づける。サトシの唇に目線が行く。リードされてキスをするなんて、初めての体験だと、少しおかしくなった。
 サトシの顔が近づく。俺は目を閉じた。すぐに唇が触れる。触れるだけのキスに満たされるような感覚を覚えた。


「……バイバイ、隆さん」

「おぅ、じゃあな」


 そのまま振り返りもせず、病室を出た。これが最期になると、なんとなく感じていた。


- 34 -



[*前] | [次#]
[戻る]


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -