08
「……」
何かを言わなければ。そう思っても心臓が早鐘のように鳴って、胃が捻れるように痛んで、言葉は何一つ出て来なかった。
サトシを失う。
サトシがいなくなる。
ただそれだけが頭を駆け巡る。顔に熱が集まっていく。
「隆さん……?」
音もなく涙が落ちた。それはすぐにサトシがいる布団に吸い込まれていく。
俺が意識もしない間に、涙は次から次へと溢れた。
「……クソ」
泣かないと決めていた。少なくとも、サトシの前では。
あの部屋で1人、コンビニ弁当を食いながらいくら泣こうとも、サトシの前でだけは泣かないと決めていたのに。
「ざけんな……。なんで生きようとしてくれねんだよ! 俺と……、俺は! お前がいねぇとメシも満足に食えねぇんだよ。何食ってもお前が作ったらもっと美味いとか、お前のメシが食いてぇとか、お前と一緒に……! ……バカヤロー……!」
俺はもう考えてしまったんだ。お前と過ごす未来を。幸せだろうと思い描いてしまった。
狭いあの部屋で、毎朝サトシに起こされる。起きると朝メシはもうできていて、俺がそれを食ってる間に、お前は俺のために弁当を作ってくれるんだ。
仕事に行くときも、仕事から帰ったときも、エプロンを付けて笑ってるお前がいる。
夜寝るときは、俺よりチビのくせに俺を抱きしめるお前がいる。
「1人にすんなよ……」
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