07
「隆さんが退院するって知ったときは、……悲しかった。また1人になるんだって思ったら、すごく怖くなって泣きそうになっちゃって。ねぇ、覚えてる? 真夜中に隆さんの病室まで行ったこと」
「覚えてるよ」
「隆さんに抱きしめられて眠った。隆さんはすごく暖かくて、安心したんだ。俺が退院したら遊びに来いって隆さんの家も教えてくれた。俺、いつかまた隆さんに会うって、それだけを思って治療に耐えたんだ」
「なかなか来なかったじゃねーか」
「まぁ、それはさ、もっと大人の男になってから会いたいって思ってたし、自分に自信っていうか、こんなガキじゃ隆さんとは並べないって思って」
「馬鹿だろ。お前が何歳になってよーが、俺からしたらガキだっつーの」
「分かってるよ。分かってるけど……背丈くらいは抜かしたくて……牛乳毎日飲んだし、魚も食べたし」
「まだまだだけどな」
「とにかく、隆さんは俺の生きる意味だったっつー話!」
「なんだよ、……過去形かよ?」
『移植はどうするんだ?』
そう聞きたくても、聞く勇気がない。大概ネガティブ思考な俺。
「隆さんも聞いたんでしょ? ドナーの話」
「あ、あぁ、まぁ……な」
「どう思った?」
「……。……お前は?」
「俺は、少しの間でも隆さんと2人で暮らせたし、気持ちも伝えられた。もう十分だって思うんだ。俺の人生にしては、上出来だと思う」
心臓が、締め付けられるようだった。
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