06




 サトシがホスピスに入ってから、しばらく経った。俺は相変わらず、仕事終わりに毎日毎日顔を出しては、ゲームにヤキモチを焼いていた。
 今日は珍しくサトシの母親に会い、部屋に行く前にロビーで話をしたいと言われた。その表情は複雑なものだった。


「ドナーが!?」

「えぇ。見つかったの」

「それ、サトシは?」

「さっき、以前の担当のお医者さんが見えて、一緒に聞いたわ」


 ドナーが見つかって嬉しいのは当たり前だが、手放しで喜べる状態ではない。
 手術の前処置として、大量の抗がん剤投与、放射線照射が行われる。前処置に耐えられたとしても、その後必ず手術を行わなければいけないし、手術ができでも拒絶反応がある。
 そして、なにより、治療を拒否しているサトシにそれを強いることはできない。


「サトシは何て?」

「なんとも……」

「とりあえず、少し、話してみます」

「えぇ」


 俺はサトシの母親と別れ、サトシの病室へ向かった。

 ノックを2回。了承は得ずに入る。サトシが俺を見る。俺はサトシの目をじっと見て、心の内を探ろうとしたが笑顔で躱されてできなかった。


「ねぇ、隆さん。俺ね、もう生きられなくてもいいって思ってたんだ」

「サト……」

「聞いて。最後まで。そこ、座って?」


 言いたいことは俺にだってある。いっぱい。ありすぎて何と言っていいか分からないほどに。でも、黙って丸椅子に座った。


「俺、楽しいことなんか何もなかった。毎日辛くて、誰にも言えなくて、苦しい思いをして、痛いのも我慢して、何で俺は生きなくちゃならないんだろうって思ってた」


 サトシの顔は穏やかだった。


「でもね、隆さんに会えてからは変わった。明日はどんな話をしてくれるかな。どんな遊びを教えてくれるのかなって、次の日を待ち遠しく思いながら眠れた。隆さんといると、俺ね、自然に笑えたんだ」


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