02
「……そうか」
「うん……」
沈黙が続いた。
何か言わなければと思ったが、何も浮かばない。
「……俺、ほんとに楽しかったよ。隆さんと過ごせて」
「……あぁ」
「料理もね、いつか隆さんのために作りたくて、勉強してたんだ。だから、和食しか作れないんだけどさ」
「……美味かったよ」
「髪も、伸ばしたんだ。坊主以外の俺、見て欲しくて」
「……おう」
「俺の初恋は、隆さんだった。なんて言うか……俺の全部だったんだよ。隆さんが」
ポツポツと言葉を紡いでいくサトシ。サトシが自分のことを話すのは初めてだった。
その全てが、俺を想っているという気持ちだというのに、別れの言葉にしか聞こえなかった。
「学校には行けなかった。お見舞いに来てくれる友達はすぐにいなくなって……、年に一度くらい企画されるんだろうね……同じクラスだっていう会ったこともない子達から貰う手紙には、冷めた感情しか持てなかったんだ」
「……うん」
「でもね、隆さんが俺の友達になってくれた。隆さんは骨折で入院なんか冗談じゃねぇって言ってたけど、ほんとはね……治んなきゃいいって思ってた。ずっと、病院にいてほしいって思ってた」
「初耳だな……」
たった9才の子供が望むにしては些細な願望だ。
そして、それを俺に感じさせなかったことが、気付いてやれなかったことが、俺を切なくさせる。
「言えるわけないよ、そんなこと」
「……だろうな」
聡は自分のことを後回しにする子だった。まぁ、今もかな。
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