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「……そうか」

「うん……」


 沈黙が続いた。
 何か言わなければと思ったが、何も浮かばない。


「……俺、ほんとに楽しかったよ。隆さんと過ごせて」

「……あぁ」

「料理もね、いつか隆さんのために作りたくて、勉強してたんだ。だから、和食しか作れないんだけどさ」

「……美味かったよ」

「髪も、伸ばしたんだ。坊主以外の俺、見て欲しくて」

「……おう」

「俺の初恋は、隆さんだった。なんて言うか……俺の全部だったんだよ。隆さんが」


 ポツポツと言葉を紡いでいくサトシ。サトシが自分のことを話すのは初めてだった。
 その全てが、俺を想っているという気持ちだというのに、別れの言葉にしか聞こえなかった。


「学校には行けなかった。お見舞いに来てくれる友達はすぐにいなくなって……、年に一度くらい企画されるんだろうね……同じクラスだっていう会ったこともない子達から貰う手紙には、冷めた感情しか持てなかったんだ」

「……うん」

「でもね、隆さんが俺の友達になってくれた。隆さんは骨折で入院なんか冗談じゃねぇって言ってたけど、ほんとはね……治んなきゃいいって思ってた。ずっと、病院にいてほしいって思ってた」

「初耳だな……」


 たった9才の子供が望むにしては些細な願望だ。
 そして、それを俺に感じさせなかったことが、気付いてやれなかったことが、俺を切なくさせる。


「言えるわけないよ、そんなこと」

「……だろうな」


 聡は自分のことを後回しにする子だった。まぁ、今もかな。


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