01




 病室のドアをノックする。中からサトシの返事が聞こえた。ひどく懐かしいような気にさせられる。中に入り目が合うと、サトシは放心したような表情になった。


「た、かしさ……」

「……おう」

「なんで……ここが?」

「お前が変なヒント残していくから。俺を『たぁ君』って呼ぶのは聡だけだからよ。……まさか、入院してるとは思わなかったけどな」


 サトシがいるベッドの横にあった丸イスに座った。
 沈黙が続く。


「……さっき、お前の母親に会った」

「……聞いた? 俺のこと」

「あぁ」

「そっかぁ。俺、なんで『たぁ君』なんて書いちゃったかなぁ」


 笑うサトシ。
 でも、俺は笑えない。


「お前、俺との約束守ってくれたんだな」

「そうだよ。身体治して会いに行った。……まぁ、再発したって分かるまで会いに行く勇気なかったんだけどさ」

「……そうか」

「隆さんこそ、約束守ってくれてたんだよね。7年も同じアパートに住んでて。あそこから、会社遠いんでしょ?」

「……願掛け、みたいなもんだったんだ。ここで待ってりゃ聡は治るって」

「治ったよ」


 サトシの顔が見れなかった。きっと笑っているに違いない。そう思ったら余計に見れなかった。


「……隆さん。俺もう治療しないよ。だから、お別れ」


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