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 サトシは昨晩言っていた通り、この部屋から出て行った。俺が寝ている間に、全ての荷物をまとめて。
 俺が必ず見るように、机の上に朝メシと一緒に置かれた手紙。別れを告げるそれを読んでも、涙を流す気にはならない。


「聡……だったのか」


 『隆さん』ではなく、『たぁ君』と書かれているのを見て、ようやくサトシの正体に気が付いた。初対面の振りをしていたサトシにすっかり騙されていた自分が少し恥ずかしい。
 名前しか知らないが、どれだけ時間が掛かっても見つけだしてやろうと思った。別れを受け入れられなくなるほど、サトシの存在はもう俺の中で、大きなものに変わっていた。

 サトシが出て行ってから初めての休日。
 俺は、サトシを探し出すための唯一の手がかりに当たった。まさか、ここで見つかるとは思っていなかったけど。
 俺が行った先は、7年前、まだ大学生だった頃に入院した県立病院だった。


「松浦聡君なら、126号室ですよ」


 どうにか頼み込んで、サトシの家へ電話でも掛けさせてもらえたりすればいいなと思っていた。
 それなのに、看護師から笑顔で病室を教えられるとは……。

 考えがまとまらない頭は、それでも126号室へと足を動かした。
 サトシの名前だけが書かれたプレート。大部屋ではなく、個室に入院しているという事実が、扉を開けるのを躊躇わせていた。


「聡のお知り合いの方ですか?」

「……あ、はい。あの……、お久しぶりです」

「……?」

「あぁ、覚えておられませんよね。以前、ここに入院していた前川隆です。聡君と、よく遊んでた……」

「隆君? 聡に、会いに来てくれたの……?」


 病室の前に突っ立っていた俺に、声を掛けてきたのは、聡の母親だった。7年前はいつも笑顔を浮かべていたその顔に、大粒の涙が次々と流れていく。


「聡君のこと、教えてもらえますか?」


 俺たちはその場を離れ、落ち着いて話ができる場所へ移動した。


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